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クーパー荷重の不思議のつづき。

もはやクーパー荷重の不思議を調べているのか、単なる鉄道ネタを追いかけているのかわからなくなりつつあるが、引き続きクーパー荷重の基準の検証である。

前回のエントリではwikipedia英語版を漁って車軸配置別の製造両数をざっと調べたが、手元の本に全部書いてあったので修正の意味をこめて再掲する。両数の出典は『蒸気機関車のすべて』(久保田博、グランプリ出版)である。この本と著者は国鉄目線で国鉄の黒歴史を賛美しているため、本来の設計のまずさを乗務員の決死の行動や取り扱いで解決することを美談として紹介したりしてどうにも腑に落ちない文脈も多いが、こうした数字は間違いなかろう。と思ったら間違ってるじゃねーか!

同書に「アメリカの鉄道におけるSLの生産量数10万5650両」と題して下記のような表(製造初年は筆者が加筆)がある。しかし、これは生産量数ではなく、「アメリカ国内での使用両数(アメリカの鉄道会社が購入した両数)」だと推測する。前回のエントリに書いたとおり、、1Dは3万3000両製造され、うち1万2000両が輸出されたという記述がwikipediaにある。それを差し引くと久保田氏の数字に近づく。日本人が聞きかじった(と邪推したくなる)記述よりも、アメリカのヲタのフィルタを通して書かれたものを信じたい。久保田博氏が、数字の前提を取り違えて発表してしまったのだということにする。アメリカで製造されたものは、カナダとメキシコにも大量に輸出されるのだ。カナダにはディーゼル機関車メーカーはあるが、メキシコにはない。

「アメリカの鉄道におけるSLの生産量数使用両数10万5650両」
(年号は製造初年。wikipedia英語版を斜め読みして拾ってきたものなので誤ってたらスミマセン)

2B 2万5000両(アメリカン)1831~
1D 2万1700両(コンソリデーション)1864~
2C 1万7000両(テンホイラー)1847~
1C 1万1000両(モーガル)1860~
1D1 9500両(ミカド)1884~(当初「カルメッツ」、1897より「ミカド」)
2C1 6800両(パシフィック)1900年代~
2D1 2400両(マウンテン)1911~
1E1 2200両(サンタフェ)1903~
2B1 1900両(アトランティック)1900年頃~?
1C+C1 1300両(マレー)1919~
2D2 1000両(ナイアガラ)1927~
1C1 1000両(プレーリー)1885~(テンダー機)
1D2 750両(バークシャー)1925~
1E 700両(デカポッド)1867~
1D+D1 700両(マレー)1909~
2C2 500両(ハドソン)1927~
1E2 450両(テキサス)1919~

上記の数字には説明したいことが山ほどあるが、それをやると枝のほうが幹より太くなってしまうので必要最小限のことを非常に大雑把に書くだけで我慢する。

・輸送量の増大に応じて、後年のものは大型化し、それ以前のものを置き換えている(例:2B→1D)
・20世紀に入ると客車が木造から鋼製になり、重量が増大したためより大きな出力が要求された
・アメリカでは1930年代にはすでにディーゼル機関車が製造され始めていた
・大型の車両ほど製造両数が少ないのは、短期間のうちにディーゼル機関車に置き換えられてしまったため

そう考えると、クーパー荷重が制定された1894年頃に幅をきかせていた車軸配置は、やはり1Dの機関車だということになる。


20世紀に入ると蒸機機関車の製造両数が減っているが、これは、小型の機関車で軽い列車を牽引するよりも、出力を増大した大型の機関車で重い長い列車を牽引したほうが、人件費が安くなるからであろう。アメリカの蒸機機関車が極端に大型化し、走行装置を2組組み合わせた関節式蒸機機関車(いわゆるビッグボーイやチャレンジャーなど)が開発されたのも、人件費節約のためである。2両の機関車を運用するより1両でまかなえたほうがいい。そして、機関車が超大型化すれば火室内への投炭は人力では不可能であり、ストーカーを使用することになり、これも省力化になる。

遠からず、ディーゼル機関車が爆発的に普及し、1両あたりの出力こそ大型蒸機機関車には及ばないものの、一人で4重連の機関車を運転できるようになれば、やはり人件費がものを言ってくる。その上、20世紀前半には、消耗戦や経営の異常さから、早くもアメリカの鉄道は斜陽化している。これらさまざまな要因が絡み合い、大型蒸機機関車の製造は19世紀の小型のそれよりもずいぶん少なくなる。


そんなこんなで、クーパー荷重からKS荷重は1D+4軸の炭水車、という基準となってしまった。後年、実際の電気機関車の車軸配置に即したEA荷重や、ボギー旅客車に即したM荷重が制定され、ようやく現実を反映したものとなり、ここに私は一安心して筆を擱くというか、PCの場合はどう表現すればいいのだ一体。
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