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永太郎さんこと重永瞬さんが、twitterにY字路の類型の画像をアップしているのをみて、何か起こるかな? と期待した。三土さんのDPZ記事「道路を方角ごとに塗り分けると、その街のでき方がわかる」を踏まえた「道路を方角ごとに色分けした地図を鑑賞する会」のような「地図的なおもしろさ」にも出演しているので、そういう記事か何かが出るのかと思ったら、書籍となってまとまって驚いた。

Y字路だけで1冊。すごい。『街角ガードパイプ図鑑』(岡元大)みたいだ。「地理・歴史雑学」だけではないだろうなと予想しつつ手に取ると、「地図・都市鑑賞」というべき構成で、ライトながら裏付けのある記述にあふれていた。

章立てはこうだ。
第1章 Y字路へのいざない
第2章 Y字路のすがた -路上の目(※磯部メモ:「路上」!)
第3章 Y字路はなぜ生まれるのか -地図の目
第4章 Y字路が生むストーリー -表象の目
第5章 Y字路から都市を読む -吉田・渋谷・宮崎
第6章 Y字路とは何か

第2章から第4章の副題が本書の要諦だ。路上で鑑賞する/地図で分類する/表象を考える。巧みかつ簡潔な構成だ。



私は、優れた都市鑑賞の本(WEB記事などももちろん含む)には読者が勝手に話を継ぎ足したくなる要素があると思っていて、本書はまさにそれ。読者は千人が千人、それぞれのY字路を思い浮かべるだろう。生まれ育った街だったり、いま住んでいる街だったり。



私にとっては新潟市のここだ。右が元からある道、左が新道。左はすぐに左への分岐があり、そこから砂丘を登ると中学校だ。分岐を曲がらずにまっすぐいえば、「鶏の半身揚げ」を全国区に有名にした「せきとり」がある。もともとは地元の飲み屋で、町内会やPTAの会合はいつもここだったようだ。



本書を読んで勝手に話を継ぎたいことが2点ある。橋の角度とクルマからの観点だ。

【1】橋の角度…大淀川が真東に向かっていたら?

第5章で語られる宮崎市のこと。橘橋の角度によって規定されているのだが、ではなぜ橘橋はこの角度なのか。

 
今昔マップより)

それは、「大淀川と直交するため」である。河川を横断する場合は、基本的に直交する。上の地図に描かれた橋を河口から順に見れば、そうなっているのがわかるだろう。やむを得ない場合は斜めに架けるし、そういうケースも少なくはないが、原則は直交だ。特に長大橋梁が難しかった時代、つまり時代を遡るほどにそうなる。

宮崎市の道路を規定した橘橋。橘橋を規定した大淀川と土木の基本。スケールを小さくしてみると、見えるものが変わるおもしろさがここにある。

【2】クルマから考えるY字路

道路交通にとって、Y字路は好ましくない存在だ。「分岐する側」ならいいが、逆だと、交差する道路が鋭角になってしまう。見通しは悪いしクルマの最小回転半径からして難しい。また、信号があるとしたら、たいていは変則的な表示になる。

都心の新道でも郊外のバイパス新設でも、そういう理由からだろう、Y字路にせず、旧道との接続部を修正してT字路にしてしまうことがある。たとえば現在事業が進んでいる環状4号の早稲田あたりを見てみよう。

 
(東京時層地図に加筆)

かつてグランド坂は早稲田通りに直結していた。環状4号とグランド坂は鋭角の位置関係だが、交差点を大きく作り替え、グランド坂は早稲田通りではなく環状4号に接続する形にした。そのためにグイッと接続部が曲げられている。しかし、こうしたほうが交通整理がしやすく、安全であることは、現地に立てば実感できるはずだ。

■関連項目:環状4号線(早稲田通り-新目白通り-不忍通り)



本書では、「あっ、これ、自分も意識していた!」ということが多々掲載されている。それが個人的には嬉しい。同じセンスを、かなり世代が違う著者と共有しているという勝手な喜び。P128の『時をかける少女』のY字路標識、私はキャプチャして保存してあったはず。でも映画の場面をツイートするのはためらわれて、どこに保存したかもうわからなくなってしまった。(※キャプチャもいけないと思われますが…)

最後に、あまりないというY字路注意の標識と、その変型を。

 
北海道の鬼志別。村営牧野に立っていたY字路標識。

 
こちらは長野県の権兵衛街道に立っていた、Y字路標識を逆さまにしたと思われる標識。この先で左から来る道と鋭角に合流するのだが、そこで死亡事故が起きたと現地に掲示してあった。それを踏まえて設置されたのだろうと推測する。なお、逆向きには標識はない。



みんなで「見せたいY字路」を持ち寄って発表しあいたい。おおいにそんな気にさせてくれる本だった。

『Y字路はなぜ生まれるのか?』(重永瞬/晶文社)







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