タイポさんぽ(藤本健太郎著/誠文堂新光社)の刊行を記念したトークイベントがカルカルで開催された。
本に収録していない「タイポ」を中心に、「オハナライズ/スターライズ」から「ウェーヴ&カ~ル」など種類別に分けての鑑賞トーク。本ではとても愛のある 鑑賞文だったのだけれど、そこはトークイベント。愛は決して失わずに、本とは違った角度でのツッコミを入れたりして、「なぜ『タ』の点は☆化するのか」 「なぜ巻くのか」といった話を展開する。
●看板の文字は、時代の空気が封じ込められている。
これは、美容院の看板なのだが、実はこの書体は1965年に作られたCountDownという書体だったという。それを、天地を寸詰めて使っている。その際、「cut」の「u」を、本来のものでは「u」と認識しづらいと感じたのか、「v」に置き換えているという芸の細かさ。<参考> count down書体 ここで、眼を見開かされた文化論が展開された。最先端のニュアンスを持つ言葉が、一段階生活の中に落とし込まれたときに、こうしたタイポグラフィーが生まれるのではないか…という考察。「ファッション」という言葉が最先端だった時代には、その言葉を文字に入れ込むときに、なんとか先端ぶりを封入しようとした、だから「ファッションクリーニング」には「巻き」が含まれることが多いんじゃないか、と。その考察は、「古い看板を見ていると、その当時のレタリングの空気が、消えずに残っている」という見方に至る。 確かに、「ファッションクリーニング」とか「ファッション○○」という文字が躍っている看板は、少し時代に遅れた感がある。この「ファッション」の部分は、現代でいえば「デザイン」という単語が使われている。デザイン家具とかデザイン文具とか。「ファッション」以前は「文化」だった。文化住宅とか文化包丁とか。となると、いずれ「デザイン○○」という言葉や「そのもの」が、こうした鑑賞の対象になるかもしれない。1980年代の「ファンシー」が、既に鑑賞対象になっているように。 (このあたりの話は、USTアーカイブの55分くらいからある。いきなりそこを見ても理解できないので、最初から見るように!)
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●すぐれたゲシュタルト崩壊文字は、彫刻に近づいて行く。
後半は、ゲシュタルト崩壊から。 一連の文字列になっているとスッと読めてしまうのだけれど、一文字だけに注目しはじめると、突然、その文字とは認識できないデザイン性を感じることがある。 ここでは、ただでさえ鑑賞の対象になる文字列の中からそれを見出す試み。一つの文字をこれだけ大きく描くと、本当に、文字に見えない。そして気づく。「まるで、立体の彫刻のようだ」。そう言われると「大将軍」の「将」の字も、石の椅子に見えてくる。画像はアップしないが、本当にそう見えてくるからおもしろい。 次いで「サニパックの仲間」シリーズ。個人的には、先のCountDownに通じるものを感じる。ここでは「ブラケットセリフがついた日本語は、だいたいヤバい」という見事な洞察で締めくくられる。 そして、最後のテーマは「恐怖」。 説明するだけ野暮だろう。
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トークの醍醐味は、話者と観客との場の共有感だと思っている。本を読むという行為は話者から観客への一方的な話だが、トークイベントは、観客から話者に雰囲気として感想をフィードバックできる。今日も、そのキャッチボールは大成功だったと思う。とてもいい空間を楽しむことができた。書体についてまったく知識のない人でも十分楽しめる構成だったと思う。 最後に。 私がこうした書体やレタリングに興味をもったきっかけは三つあって、ひとつはバンコのテンプレート、ひとつはかつての新聞の解説図版に添えられていた「書き文字」、ひとつは駅の駅名標の文字だ。 新聞の解説図版は、いまはPCによるCGに置き換えられてしまったが、たとえば事件現場の解説など、図には写植を載せずに、独特の手書き文字を載せていた。いま手元にそれが残っていないのが残念だが、等幅の細い文字で、看板文字のようにフェースいっぱいに書かれていた。読売新聞で最後まで残っていたのは、1面の「読売新聞」の文字(タイトル文字ではない)と天気図だった。駅名標は、「フォント」に取って代わられた。 テンプレートはごく一部でのみ生きのこり、新聞の書き文字と駅名標の書き文字は失われた。しかし、看板が時代の雰囲気を封じ込めるように、私は自身に興味を持った時の気持ちを封じ込め、その琴線に触れるものを「いいな」と感じているのだろうな、と思う。看板文字、大好きだ。 私の原点の一つ:駅名標 == USTアーカイブはこちら。 http://www.ustream.tv/recorded/26324666 togetterまとめはこちら。 http://togetter.com/li/393690 PR |
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