ついに買った。昭和50年に発売された第2版。昭和46年の初版をさがしていたのだけれど、なかなか出てこないので、諦めて、第2版にした。写真集は、たいていの場合は初版がいちばんいい。出版社も写真家も印刷品質を厳しく見ているからだ。本書がそれにあたるかどうかは見比べたわけではないのでわからないが、大木さんもそのように仰っていたと思う。 いままで買っていなかったのは、単純に、古書とはいえ高価だからだ。8000円より安いものは見たことがない。初版はその1.5倍かそれ以上が相場のようだ。私が買ったものは思ったよりも程度がよかった。帯もほとんど傷んでいない。スリップと、キネマ旬報社の印鑑が押してあるプリントが入っていたので、もしかしたら寄贈本なのかもしれない。 * * *
写真は、三氏が撮影したものが、クレジットなしで掲載されている。大木さんの作品はいくつか『汽罐車』に再録された作品もある。両者を見ると、40年という、大木さん自身と印刷技術双方に流れる時の差というものを感じないわけにはいかない。それを意識しつつ両者を見比べると、両者の制作意図が見えてくる。 『北辺の機関車たち』は、冬の北海道の蒸気機関車を撮ったものである。対して『汽罐車』は四季、全国のものを掲載しており、人物や駅の光景も多く写っていることもあって、率直な印象として、明るい。見比べて興味深いのは、同じ北海道の冬の作品を見ても、『汽罐車』のほうが明るく感じるということだ。それは、……勝手な読者の感想として受け取っていただきたいのだが……『汽罐車』を制作するときに写真家がそうしたかった結果だと思う。もっと重苦しい色調でトーンを整えることだってできるのだ。 40年経って大幅に進化した印刷技術によって表現の幅が広がった現在、準高精細印刷(注)が実現できる『汽罐車』では『北辺…』のときにはそうしようと思わなかった、あるいは実現できなかったトーンにしようという意図が大木さんにあったのかな、と思いながら読むのもまた楽しい。まったくの見当違いかもしれないが、読者というのは勝手な読み方をするものなので…。 (注)200線=400dpi以上の精細な印刷を一般的に「準高精細印刷」と呼ぶ。世の中の大半のカラー書籍・雑誌の印刷は175線=350dpi。私は、活版印刷の漫画誌や「本体表紙」を除いて後者しか扱ったことがない。 * * *
実は、そうしたことを分析するかのようなことを写真印刷と絡めていろいろ書いたのだが、全部消した。いい本は、ただ眺めるに限る。 『北辺の…』は、『汽罐車』以上に線路端を歩いている若い旅人のにおいがする。撮影地ガイドもなく「お立ち台」も(たぶんほとんど)ない時代ではあるが、いまよりもはるかに自由に撮影ができ、絵になる場所もふんだんにあった時代。その時代に、ひたすら旅している若者の息づかいを感じる。「鉄道旅」ではない、「旅」。なかなか説明しづらいが、「鉄道撮影にしか関心がない」ような感覚ではなく、目に見えるものすべてを楽しく感じるという感性の発露。人は、10代から20代前半のうちに、北海道を何度も旅するべきだと思う。 * * *
傍らに置いておくと、しなければならないことがあるのに、5分おきくらいについ手にとってパラパラしてしまう。そういう気持ちになる写真集に出会えたことを嬉しく思う。この文章を書くのにも、本書がじゃまをして、おそろしく時間がかかってしまった。 ■大木さんのサイトがリニューアルされています。 ・モノクロームの残照 ■共著者の堀越庸夫さん、『汽罐車』制作にも出てくる榊原茂典さんのサイト ・蒸気機関車がいた時代 ・蒸気機関車 写真館 (関連事項) ・大木茂写真展『汽罐車』 ・大木茂『汽罐車』 PR
「9号7線」という標識。岩見沢市道だと思って撮ったのだが、よく見れば「9号7線」、「線」ではなく「点」の情報だ。見えている交差点は「東9号」と「南7線」の交差点である。
付近は、かつての栗沢町だったエリア。黄色くシールしてある部分、上は栗沢町の町章(こういう形状が透けて見えている)、下はおそらく「KURISAWA 栗沢町」とある。
2012年夏、大雨の秋田県道をバイクで走っていた時に、この丸善石油を見つけた。シートがかけられていたので、解体寸前かと思ったのだが、あまりの雨でカメラを取り出すどころか立ち止まることもせず、通過した。また来ればいい。なくなってしまったら、それはそれで。
1年後、2013年の夏、幸いにも再訪することができた。今度は、文句ない快晴。…前年の印象ではもっと大きく2階建てくらいあった気がするし、キャノピーの上に「丸善石油」とあったような気もするが、まったくもって定かではない。勘違いの可能性も高い。 併設されたピット。MARUZEN CAR SERVICEという文字がきれいに残る。これらのシートの中は資材があるようだ。 防火壁は鮮やかな小豆色が残る。しかし、ツバメは見当たらなかった。 |
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