兵庫県には因幡の国を含むのかを書いたら、このようなコメントをいただいた。
たしかに、ボカした地図画像だけれども、そのように見える。確実にするために、実物を入手した。 20万分の1地勢図の「姫路」(明治43年製版・昭和23年修正)だ(以下「旧版」とする)。例の国界・県界が表示されている。この形をよく覚えておいてほしい。戸倉峠はまだトンネルがない旧旧道だ。戦時中にここにトンネルを穿とうとした跡を、nagajisさんが発見し、畏怖すべきことが描かれている。これはぜひ読んで欲しい。(『日本の廃道』2008年9月号。紹介文は超軽いが…) この地図は、20万図なのに「ボカシ(陰影)表現」がない。スミ、等高線の茶、水系の青の3色刷だ。ボカシをなくしたのはコストダウンか。 国土地理院の図歴によれば「くんせん抜きの地図」とある。「くんせん」とは初めて聞いた。漢字で書くと「暈渲」であり、デジタル大辞泉によれば「色をぼかして表すこと」。本来は「うんせん」と読むらしい。Wiktionaryにも読みは「ウン」しかない。「渲」はWiktionaryにもない。Wikipediaには「暈渲」の項目がある。 話が逸れるが、地図の用語は、やたら難しいことがある。山名は縦の右斜体(文字を右上に垂直方向に引っ張る)、河川名は縦の左斜体(同じく左上に)がかかるが、これを「しょう肩体」という。漢字にすると「聳肩体」だ。 話を戻して、上記の地図を、20万分の1地勢図と同等の「数値地図200000」(以下「現代の版」とする)をカシミール3Dで切り出してphotoshopで合成した。全体的に描き方のズレがあるのは仕方がない。旧版は明治43年製版なので、実際は初版である明治27年以前の測量だろうから、相当に「適当」であることが推測される。そのため、現代の地図とは大きなズレがあるのだ。図歴では、「修正版」の明治27年測量版が最古だが、それとて「修正」である。 現代のレベルになるのは、昭和59年「編集」になってからだ。「編集」とは、2万5000図や5万図を元に20万図を作り直すこと。当然ながら、より正確になる。直前の昭和57年「要修」は、旧版を着色した昭和34年「修正」と同等のボカシ表現だが、昭和59年「編集」は、稜線の形や等高線が大きく変わっている。それと同時に、「謎の、国界と県界のズレ」が発生している。 わかりやすくするために、現代の版に、旧版にあった「国界+県界」を黄色で載せる。ズレは前記のとおり測量の精度によるものだ。注目したいのは、氷ノ山の左下の、県界と国界がズレている部分。やはり、@every_road氏の推測に近く、「『編集』時に県界などを正確に描き直したのに、国界は旧版のものをそのまま使ってしまった」ために、兵庫県に因幡の国が含まれてしまうようなことが起きてしまったに違いない。現代の図版製作でいえば、「国界のレイヤーだけ更新するのを忘れていた」ということになる。 地形図において、単なる誤字や体裁の誤り、道路・鉄道の属性間違いや更新漏れなどはときどきあるが、こうした部分の誤りは初めて見た。20万分の1地勢図や数値地図200000を更新することはもうないだろうから、ここは永久にこのままだろう。 【関連項目】 数値地図に残る鉄道の亡霊と誤記 四国にある唯一のA&Pロバーツ製橋梁。第4武庫川の中央パネルを短縮改造して転用したもので、元は122フィート11インチ(37465mm)のところ、33000mmになっている(単位の表記が不統一だが、土木学会の元図がそうなっている)。 この洲津川橋梁には近付くことが難しい(と当時は思っていた。後述)。そのための「飛び道具」として付近の国道32号からドローンを飛ばして撮影したものが上の写真で、実際には国道からは見えない。この日は風がとても強く、墜落させてはマズイので、ドローンを近づけることはできなかった。(2020年8月) 2021年3月に、上り列車後部からスマホで撮った。上り列車は坪尻駅を通過するとすぐ短い坪尻トンネルに入り、鮎苦谷川(あいくるしだにかわ)を渡る。それが洲津川橋梁である。橋梁名と河川名が異なるのは、鮎苦谷川が吉野川に合流するあたりの地名が「州津(以前は洲津と書いたようだ)」なので、おそらくどこかの時点で公式な河川名が変更されたのだろう。よくある話だ。 (Kashmir3D+スーパー地形+地理院地図) さて、その洲津川だが、線路のすぐ西にトンネルの記号がある。本来は北にぐるりと回っているところをショートカットしたのだろう。それを検索すると、なんとそこに到達している方がいる。ほかにも、河原からこの洲津川橋梁を撮影した写真や動画があるので、坪尻駅から歩いていけるのかもしれない。 (参考) 導水トンネルと洲津川橋梁 その1 坪尻駅は、以前、国道32号から行こうとしたけれども、クルマを停める場所がなく…いや、停めることはできなくはないが塞ぐのが申し訳なく、断念したことがある。列車で訪問するのがスジ、ということになろうか。 イカロス出版から、これまたすごい本が出た。タイトルからすると、「全国にある『トロッコ』…軌道自転車に乗れる観光ガイドかな?」と思うかもしれない。実際、冒頭はそういうガイドである。ところが、そんな「調べれば誰でも書ける」というようなシロモノではなかった。 著者は、車両の保存活動で有名な笹田さんだ。執念と表現したくなるようなコンプリート的な探訪と調査で、過去も『車掌車』はじめ、「よくこのテーマでここまで…」と思わせられるほど、盛り込まれている。 まず驚いたのは、「軌道自転車を使って廃線跡を走る」というのは、笹田さんが学生時代に九州で始めたのが嚆矢である、ということだった。知らなかった。未成だった柚須原線に敷かれたまま残っていたレールの上に軌道自転車を走らせて「開通」させたのが1995年9月17日。翌1996年9月15日も開催されたがそれがこの区間では最後となり、翌日には上山田線の廃線跡でやはり軌道自転車を走らせて「復活」させた。 遠く福井の大学生だった笹田さんがこれを実現したというのは、驚異的なことだ。しかし、1997年にはEF70を買ってしまう笹田さん、どっちが驚異的なのかは測りかねる…。 「こういう方法があるのか」と知った人が全国各地に現れ、ちらちらと登場したのは90年代末期から。私もできたばかりの美深で乗った。 この本のすごいところの一つは、軌道自転車の発達史があり、カタログがあり、「保存車」を紹介しているところだ。コミケで軌道自転車をまとめたものがあったら、相当に話題になるに違いない。でもそれはコミケという場での受け方・売れ方であって、コミケで2000売れても商業出版したらまったく売れないパターンというのは往々にしてあり、軌道自転車はそれではないかと思うのだけれど、こうして1冊にまとまっている。笹田さんの構成力とイカロス出版の判断のすごさをここに見る。 笹田さんの軌道自転車観察はこれに留まらず、海外の事例や保存例にも及ぶ。そして、フィリピンのバンブートロリー…列車がこない間に人車を勝手に運行するスタイル…にも触れる なんと、バンブートロリーを模して自作してしまった。これを「コミケ的」でないとしてなんと表現しよう。このノリこそがコミケで受けるものであり、これを商業出版でやり遂げてしまったことには驚くほかない。 「鉄道」というあまりに広いジャンルには、まだまだ、ほとんどの人が関心を向けていない魅力やテーマが眠っているのだと気づかされる。私は笹田さんを存じ上げないときは、車両保存の方面の方だと思っていた。それが、実は廃線跡や廃止駅も若いころからものすごいペースでめぐっておられ、その成果が『廃駅ミュージアム』であり、『廃駅。』であり、『車掌車 』であり、『幽霊列車 ~日本と世界の廃車図鑑~ 』だ。並行して、保存活動も相当に動いていらっしゃるはずだ。 笹田さんの執筆や出版のペースは尋常ではないが、それは、笹田さんを突き動かすものがあまりに多すぎ、寸暇を惜しんでそれに応えているに過ぎないだろう。 この、『走れ、トロッコ!輝け!錆レール』と題されたおそるべき本は、しかし、従来の鉄道書の概念と相当に異なると思う。タイトルからして、エッセイのようだ。実は『廃駅ミュージアム』のときも、それが妥当かどうか相当悩んだのだけれど、笹田さんたっての強い希望もあるのでそれにした。また、本書はムック的な造りになっている(いや、刊行形態はムックなのだが、A5判でカバーつきであり、書籍と同じ体裁をしている。刊行形態がムックなのは、版元の出版物流的な事情によるものだろう)。これが、「コミケに出したら相当に売れそうなテーマの本」商業出版の合流地点なのかもしれない。コミックスを舞台化したものを「2.5次元」というが、そんな位置。 いま、新しい感覚の鉄道書がどんどん出ている。いまはそれらは亜流かもしれないが、いずれ大きな流れになるだろう。本書もまた、その流れを強くする一つだ。 参考までに、過去に書いた軌道自転車の記事を。 【関連項目】 スーパーカート(レールバイク) 東光産業 TSC-N 高知駅の近く、江ノ口川にかかるローゼ橋。しかし、ここは駐車場の入口でしかない。歩行者がOKだが、クルマは対岸に渡れないというか渡ると地下駐車場にいってしまう。 アーチ断面は円。吊り材は角。 特段、わざわざ対岸から入らなければならないようなふうには見えない。安全に配慮したためでもない感じ。普通に右岸(南)の道路から入れそう。しかし、こうなっているからには理由があるはずだ。 【2021.3.21追記】 同日公開された「全国Q地図」によれば、名称が「よさこい橋」、国道32号とのこと。 |
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