支笏湖畔の遊歩道に、古いダブルワーレントラスが保存されている。出自をたどれば北海道官設鉄道が空知川を渡る場所に架けた空知川橋梁である。その後、苫小牧から支笏湖周辺に進出した王子製紙は自社のためにこの橋梁を譲り受け、王子軽便鉄道、通称「山線」の橋梁としてここに架設した。それが、非常に素晴らしい形で、ここに保存されている。 もっとも気になるのは横桁。下には潜れないが、一直線タイプで、縦桁はそれに突き当ててリベット留めされている。その縦桁上に枕木が並んでいたのだろう。 この、力強い橋門構。明治時代の鉄道橋としては過剰と感じてしまう。 銘板は、見た感じだとレプリカっぽい。 PATENT SHAFT & AXLETREE CoLd ENGINEERS 1889 WEDNESBURY 英国系100フィートポニーワーレントラスの横桁考の整理ページ PR
◆ご指摘から始まる机上の遊び
先の記事を書いた後、@fuzzy_studioさん(阿房列車ピクトリアル)から 「もともと単線の臨港貨物線用鉄橋でしたが、将来環状線として使用する為複線仕様にしていたのは素晴らしいと思います。」 とのコメントをいただいた。そんな経緯はつゆ知らず、まあ、乗ったことも一回しかないのに橋梁そのものへの興味で現地に行ったわけだが、改めてwikipediaの年表を見るとたしかにそのとおり。以下、そこから私が興味の赴くままに見たり調べたり検索したりして、自分の糧としたことを書く。 大阪環状線の大阪-天王寺間の経緯を簡単に記す。 ・1898.4.5 西成鉄道として、大阪-西九条-安治川口間開通(単線) ・1900.12.1 国有化 ・1909.10.12 「西成線」の名称制定 ・1912.7.17 複線化 ・1941.5.1 電化 ・1928.12.1 関西本線の貨物支線として、今宮-大正-浪速-大阪港間開通(単線、非電化) ・1961.4.25 西九条-境川信号場(大正-浪速間)間開通、大阪環状線全通。 大正-今宮間の旅客営業開始。 #境川信号場-大阪港間は、廃止まで単線・非電化 ・1984.2.1 浪速-大阪港間廃止 ・2004.11.9 境川信号場-浪速間休止 ・2006.4.1 境川信号場-浪速間廃止 境川信号場から先は廃止からそれほどたっていないので、航空写真でも痕跡がある。 大きな地図で見る 右上に境川信号場の痕跡、そこから左下に向かって延びているのが、この大阪臨港線である。別ウインドウでぜひ全線を目で追ってみてほしい。 ◆文献での検証 西日本は馴染みがないので資料もほとんど持っていないが、『鉄道ピクトリアル』2002年3月号「鉄道と港-臨港線回顧」に「地形図に見る関西地方の臨港線」(高山礼蔵)という記事があった。そこに「国有鉄道 今宮-大阪港」という一節があり、たしかにこうあった。 「1928(昭和3)年、関西本線今宮から分岐して市街南西部を木津川、尻無川まで複線高架構造で建設…」(下線は筆者) 「途中の木津川、岩崎運河(現在は尻無川)の巨大な箱形の下路トラス橋は、大正区の玄関口として異彩を放っているが、これら高架線、橋梁が後年、大阪環状線の施工に大いに役立った」 旅客線への転用を前提として建設したのかどうか、そこまで明確に記してはいないが、複線電化を基準にしていることは間違いなかろう。 ◆大阪臨港線 先に掲示したGoogleマップを追っていけばわかるのだが、大阪臨港線は複線化を前提にしている部分がいくつかある。たとえばここだ。 大きな地図で見る なぜか、下路プレートガーダーが複線分用意されている。写真はnoafactoryさんのサイトに写真があった。ほかにも、橋台や用地の一部が複線を前提としていることが、Googleマップからでもよくわかる。また、先のRPの記事によれば、大阪臨港線には三つの可動橋があったという。それらはnoafactoryさんのサイト末尾にある航空写真でわかる。 ◆大阪臨港線の実際の様子 ここまでに至るヒントを教えてくださった@fuzzy_studioさん(阿房列車ピクトリアル)がまとめられたページはぜひご覧いただきたい。 ・「在りし日の大阪臨港線~港のスイッチャー」 ・「昭和50年代の大阪港・大阪臨港線(浪速貨物線)風景」 ◆まとめ あのばかでかいダブルワーレンが、のちのちの複線化を前提に作られていたとは驚きだった。正確に言えば、雑誌の記事を読んでいたのに、土地勘もなにもないためにスルーしてしまっていた。なんともったいないことか。でもきっと、それに気づかないだけで、そんなことはしょちゅう起きているのだろうとも思う。 同時に、1928年という時代に、将来を見越した計画をした当事者の計画性にも驚く。道路も鉄道も、そこに存在するに至る理由が必ずある。橋梁もそれらの一部であるし、橋梁単体としても由来があるはずだ。この経緯は、できるだけ正確に把握しておきたい。今回、タイトルの橋梁について、架けられてからの変遷は自分で辿ることができたが、大阪環状線の経緯を知らなかったために、架けられるまでの経緯に考えが及ばなかった。大変勉強になった。ご教示いただいた@fuzzy_studioさんに感謝申し上げます。
大阪環状線の弁天町-大正-芦原橋間には、巨大なダブルワーレントラス斜橋がふたつある。スペックを見る限りまったく仕様は同じなので、兄弟橋と言っていいのだと思う。そのうちのひとつ、大正駅の北西にかかる岩崎運河橋梁と、その弁天町寄りにある尻無川橋梁を紹介する。場所はここ。
大きな地図で見る 南側から北側を見ると、このように見える。 左側のドームは京セラ大阪ドーム、その右下にある3格間のワーレントラス橋が尻無川橋梁。右に並ぶガスタンクは大阪ガス岩崎供給所。それに伍する巨大な直方体が岩崎運河橋梁だ。この岩崎運河を遡る(画面奥に向かう)と大正橋、そこは木津川と、道頓堀川~岩崎運河~尻無川の、川の交差点のようになっている。 尻無川にかかるように見える橋が岩崎運河橋梁だったり、尻無川の名前を冠した尻無川橋梁の下には川がなかったり、尻無川の上流部が岩崎運河だったり、と、なにやらいわくがありそうなのだがネット上にわかりやすい解説はなかった。ところが1948年9月撮影の航空写真を見たら氷解した。便利な時代になった。 (国土変遷アーカイブから転載) 上の航空写真の、赤くマークした部分が尻無川で、いまは埋め立てられている。黄色くした部分が境川運河で、こちらもいまは埋め立て済。こうした経緯があるため、尻無川橋梁は陸地に架かっている。大阪環状線が境川運河を渡っていた部分はプレートガーダー橋だ。 ついでに大阪ガス岩崎供給所の名称で検索したら、こんなテレビ番組サイトに行き当たった。「美人なのにガスタンク好きって…」という切り口がテレビらしくてとってもむかつきますよ。「ダメ度」の採点コーナーがあるのが最悪。こんなふうにしか人を評価できないお前らは作られた流行にのっかって生きていってくださいな。 ◆尻無川橋梁 複線のワーレントラスなので幅が広い。しかも約100フィートと短いのに62度もの角度を持って渡っているため、非常に不格好な、ひしゃげた印象になっている。 歴史的鋼橋集覧はこちら。 この写真にある赤い保護枠の右側に道路橋があったようだがそれについてはまた別途書く。 ◆境川橋梁 境川の跡は水道道路のようになっていて、橋全体は見渡せない。というか、現地に行ったときには上記の経緯を知らなかったため、尻無川橋梁の延長かと思い、全体像を撮らなかったのが悔やまれる。塗装標記と銘板。 日本国有鉄道 1958 KS-16 DGC619-1
22.7T 346HZ(?) (32○○124) KK.駒井鉄工所製 駒井鉄工所は、今の駒井ハルテックである。
◆岩崎運河橋梁 西側から撮影。走っている電車(103系…)と比べればわかるとおり、その巨大さゆえの存在感。高さは20mほどもありそうだ。 径間94.945m、つまり300フィートクラスだ。こんなものが住宅地というか、街中にある。 東側に渡り、こんな存在感。 あるいはこう(収差のひどさに呆れるが仕方あるまい、いまの16-35-2はどうなんだろう?)。 こんなばかでかいものが背後にあると、近隣の方々は気圧されるのではないだろうか。余計なお世話か。 これも東側。斜橋であるため、上から見ると平行四辺形になっている。 架線をつり下げるビームが、樽部ワーレントラスのX字型の格点に接続されている。ということは、このトラスの高さは、通常の架線柱の高さの倍ほどもあるということだ。 ビームと格点の接合部分。ビームはトラス桁の構成メンバーではないため(たぶん)、取り付け部分は簡素。 ん? 上横構部分に、なにかありますよ。これ、クリーニング屋の針金ハンガーじゃないか? カラスかなにかのしわざ? ダブルワーレンたる、斜材の公差部。がっつり剛結。 その真下はこう。 X字形に公差する格点からは、「Ж」字形に天地方向に補助的に縦材が伸びている。それが下弦に接する部分。 対して、正式な(?)縦材が下弦に接する部分はこう。 斜材も剛結するので、ガセットプレートが大きくなっている。縦材の結合の方法そのものは、リベットの配置からして同じだ。 これを撮りながら、ふと下の岩崎運河を見ると、亀がたくさんいた。 ある部分をみたら、ドブ川にしか見えない岩崎運河。陸上と異なり、本来の用途が終了したからといって、そのまま何かに改変されてしまうわけでもなく放置されてしまいがちなのが運河。ここもそうした運河のひとつなんだろうなあ。 以上、写真の左上に黒い点が写っているものは撮像素子に付着した汚れです。消してからアップしようとしましたが、うっかりアップしてしまい、もういいやという気持ちに。すみません。 |
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