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「地理人」こと今和泉隆行さんの新刊。「空想地図」の作者として著名な今和泉さんの、その空想地図のリアリティを支えるのがこの「地図感覚」だ。完全に架空の地図を見る人は、なぜそれに違和感を持たないのか。それを逆から説明し、「地図はこうなっているのだ」と解き明かして、いろいろな地図のスタイルを楽しむことができる作りとなっている。

この手の本として、とりわけ珍しいのは、昭文社の都市地図『街の達人』『シティマップル』から多数の図版を転載している点だ。年代、スケールによる地図表現の違いを比較するためには、同じ会社のシリーズを使うのがいちばんだ。そこには、地図表現の違いはもちろん、制作の理由も垣間見える。それについては後述する。

「地図感覚」とは、今和泉さんが定義した言葉で、「人々が潜在的に持っている地理感覚や土地勘、経験を地図で引き出して読み解く感覚」としている。スケールがわからない場面で自分なりのスケールを持てばすごく状況を把握しやすくなるよ、ということ。

ぼくは日常的に「1歩75cm」「線路は1本25m」「電車のホームは200m」などということを考えながら動いているが、並行して「徒歩なら1km11分」、「都心部、昼間のクルマ移動なら15km1時間」「郊外なら30km1時間」「バイパスなら40km1時間」「バイクでバイパスなら100km2時間」とか、そういうスケールもある。

また、面積で把握するというのもある。100m四方の土地なら、2万5000分の1地図では4mm四方もの大きさで描かれる。2万5000分の1地図で1mm四方では25m四方でいい。約190坪、持つには広いがそれくらいの土地を持つ人は多いだろう。かつてこんな記事を書いたことがある。

・雨竜町にある(あった)「十六万坪」地名


おもしろいと思ったのは、学校の校庭の比較。


学校の校庭というのは、空中写真や衛星画像ではとても目立つものだ。下記のGoogleMapsでところどころ茶色くハゲているのは校庭だ。都市部の小学校というのは一定の間隔で配置されているので、小学校の位置を把握していると、空中写真や衛星画像での地図の把握が容易になる。



上のだと「ラベル」こと物件名が表示されてしまうので、下記に消したものを画像として転載する。


これは新潟市の広域だが、「新潟島」ハゲ部分は、小中学校と高校である(「元」も含む)。いま気づいた、新潟高校は校庭広いな。

ズームアップする。

こうすると、いかに地図のハゲが目立つかわかると思う。

地理人さんの本にかこつけて、いつか書こうと思っていた、校庭の話を書いてしまった。

* * *

本題とは外れるが、作り手側から見た「地図表現」について。

地図出版物がデジタル化したのは90年代から2000年代で、昭文社は2000年代前半まで「従来製版」の地図も刊行していた。昭文社が全デジタル化に時間がかかったのは、一図一図ではなくて「全国をすべて描き、自由に切り出せる」形式で整えたから…かなと推測している。

私が仕事で関わっているところでは、1995年に一気にデジタルに切り替えた。それまでは、要素ごと(※)にそれぞれのフィルムに描き、重ねて撮影していた。製版の精度もいまとは比較にならないので、使う色数は少ない方がよかった(だからCMYKの単色や100%、50%同士の掛け合わせが多い)。それが1995年から一図一図をillustratorで起こしたものになった(※※)。そんな事情も比較で読み取れる。

昭文社のツーリングマップルは、「ツーリンツマップ」時代から愛用しているが、デジタル化した直後はとても見づらくなった。崖の表現や道路の側線があまりに細すぎるようになった。illustrator上では線はいくらでも細くできるが、印刷の限界は、私の感覚では0.12mm。それより補足するとかすれたグレーにしか見えない。そういう視覚を基準に補正していくことも、地図に限らず印刷媒体ではとても重要になる。

(※)道路の側線/載せる色ごと/建物(特建という)/岸線/河川や海の青/山の陰影(ボカシという。これは「絵」だ)/文字、等々。
(※※)
もちろん制作費は莫大だ。A5判で一図10万くらいだった気がする。なにしろガイドブック40冊分の地図予算が1億2000万だ。(それを回収できるくらい売れる時代だったのだ)。


【関連項目】
『みんなの空想地図』(今和泉隆行著/白水社)


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