鉄道ファンの多くは、車両の「形」のファンで、乗ることが好きで、旅客運輸に関わる人の話が好き、だと思う。運転士や車掌のエピソードはみんなが聞きたがる し、よく雑誌の記事にもなっている。でも、それとはまったく違う部分で鉄道と関わっている人たちがいる。そして、彼らがいなければ、鉄道は成り立たない。本書は、そうした面のごく一部だけ、四つの仕事について紹介した本だ。
川辺さんのお名前は以前から(以前は川辺芭蕉さんと名乗っていた)存じており、記事を拝見した印象は、僭越ながらきちんとわかりやすく説こうとしているな、というものだった。上の2冊のほか、学研の本があと2冊、家にあるはずだがちょっと出てこない。私などはそれなりに突っ込んだところから書かれた方が嬉しいのだけれど、本書は交通新聞社新書ということもあり、おそらく小学生でも、すんなりと得心できるように、丁寧に、丁寧に書かれている。 丁寧というのは、その工事や部品が持つ「社会的な」意味、それに携わる人の姿、鉄道会社や製造会社が見据える未来について、きちんと説明してあるということだ。そして、各社の現場の人物や事務方の人物まで、それぞれが自分の言葉で話しているのが伝わってくる。これは取材力のたまものだろうと思う。また、さりげなく挿入された海外の鉄道との比較などは、実際に体験しないとでてこないもので、これは机上で完結する鉄道ライターでは無理なことだ。こういう、「この人ならでは」の記述ができる著者は貴重である。 このご時世なので、取材もなかなか難しいはずだ。取材対象がOKをくれない場合も多かろう。OKが出ても、あれは見るなこれは書くな、とくに大企業である鉄道会社や、受発注の関係である部品メーカーなどは検閲というか、厳しいと思う。それでも、ここに登場した東京メトロ、関東分岐器、旭硝子の販売会社・AGCファブリテックと「外製拠点」ビューテック、東洋電機は、賞賛に値すると思う。各社、かなり上級の役職の人が取材に対応している。そういう人を引っ張り出せるのも、過去から取材を重ねている川辺さんの力なのだと思う。
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惜しむらくは、丁寧さのさじ加減が実に難しいため、本書が紹介しているのが四つの仕事に限られていることだ。読者としては、全10章となるくらいのボリューム感、あるいは対象業務のまとまり感があれば、なおよかっただろうと思う。例えば、車両の機器で5章、運転業務設備で5章、などというように。 もっともこれは、交通新聞社が、最初から「鉄道車両部品編」「鉄道建設編」「鉄道業務用機器編」のように考えて設定すべきものだと思う。私が企画担当者なら、企画段階からそうする。いや、交通新聞社なのだから、雑誌に連載して、それをまとめるようにする。そのほうが取材申請も通りやすいし、版元にも著者にも還元があるからだ。 不思議なのは、本書のような内容を、老舗鉄道誌は採り上げないことだ。最近は『J-Train』が現場のグループインタビューを毎号掲載しているので、私としてはそちらを賞賛したい。鉄道誌というのは読者の関心に迎合するだけではなく、読者の関心を深める牽引役としての役割も必要なはずだ。いま、それができている鉄道誌は、RFでもRJでもRMでもなく、Jトレということになるのだろう。 願わくば、この続編、続々編を刊行して欲しい。書籍のための取材というのはスパンの長さもあって難しいとは思うが、交通新聞社は、ぜひバックアップをして、実現してほしい。
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本書で取材している地下鉄有楽町線の千川短絡線。今週から…かな、使われている。私は通勤で毎日通るのだけれど、まだ、短絡線を通る日と通らない日がある。通るたびに、本書の写真を思い出すことだろう。 続編、期待しています。 次回はぜひ電気(電機ではない)の仕事の話を。 PR |
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