丸田祥三さんの写真集『眠る鉄道 SLEEPING BEAUTY』が、ついに完成した。「本」というカテゴリでは比類なきものができあがった。つきつめると、印刷物として、こういうものを作ることができるのか…。
丸田さんの作品ひとつひとつについてはいまさら私が書く必要などない。また、どんな作品が掲載されているかは下記の「制作実況中継」で十分想像できると思う。私の感想など、ファンにはなんの役にも立たないが、造本と印刷についてなら多少は参考になると思う。そこで、それらについて書く。 <ぜひご覧ください> togetter:丸田祥三×祖父江慎×凸版印刷×江上英樹 『眠る鉄道』制作実況中継 本書の企画・担当は、月刊IKKIの江上英樹編集長。広田尚敬さんのデビュー60周年記念企画をとりまとめ、『Fの時代』を作り上げた方だ。(<参考>『Fの時代』と『Cの時代』)
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この本に興味をもったら、あるいはこの本を買うかどうか迷ったら、ぜひ書店で手にとってみていただきたい。とにかく、「造り」が魅力的だ。この「造り」が、本書の作品をさらに高めている。装丁は『廃道 棄てられし道』と同じく祖父江慎さん+福島よし恵さん。 上の写真のように、本書は、ノド(綴じてある側)までめいっぱいに開く。そして、紙が厚くて硬い。ノドまで開くこの製本は「コデックス装」、通称「綴じっぱなし製本」といって、本来は、この背に布を貼り、ハードカバーをつけるものだ。これを並製本にすると、こんな感じに見開ける。 ノドまで開けて、硬い紙だとすると、「絵葉書の束」のような印象になる。外周に白地があることによって、絵葉書感はなくなり、額装のような印象になる。このあたり、祖父江さんの狙いなのだろう。 印刷については前述のtogetterに詳細があるが、一部の折は蛍光ピンクを使った5色刷りである。印刷で再現できる色は、比較的限界が低いのだが、丸田さんの作品の彩度を再現するために、凸版印刷のプリンティング・ディレクター、金子氏が決断したものだ。しかも、通常、蛍光色は最後に刷るのだが、逆に先に刷って、その上にCMYKを刷ることで、シャープさと輝きを実現している。 私のダメな目では、5色刷りと教えていただいたページをルーペで覗いてもそれだとわからないので、このページもそうなのかどうかわからないのだが、丸田さんお気に入りの一枚が右の作品。こんな写真ではわからないだろうが、まるで絵画のようなのだ。最近撮影したデジタルカメラによる作品の、手が切れるようなシャープさと被写体の硬さとはうってかわって、画面全体がとても軟らかい。私はどシャープな作品も大好きだけれど、丸田さんのファンはこちらの作風を好む人も相当いるのだろうな、と思う。ほかにも、まるで昭和30年代の雑誌の付録のようなやさしい、少しくすんだ色合いの作品もいくつかある。たとえばこの作品。(自宅の蛍光灯が写り込んでいるのはご容赦!) わかりやすいように作品の一部だけを写すと… どうだろう、この絵画感は。 巻末には、江上さんこだわりのページとして、全作品の現役時代の写真が掲載されている。 この写真とデータを集めるのが、相当難儀したらしい。いや、でも、相当そこで楽しめたはず…と、実はお手伝いしたかった私はそう思っておく。 そして、ここで、広田尚敬さんの作品も掲載されている! 丸田さんは、広田さんをとても尊敬している。こんな形での共演、喜んでおられるのか、今度お会いしたら伺ってみようと思う。
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もう、うっとりする本だ。定価2625円。決して高くないと思う。3冊買って、1冊は「本」として大切にし、2冊はバラして1枚1枚の作品として額装して飾っておきたいくらいだ。25日配本なので、書店店頭には明日ころから順次並ぶはずだ。 本書で、丸田祥三さんの「三部作」は完成した。これから、本書を、丸田さんの作品を、作品世界をさらに楽しむためのイベントも企画中だ。私も絡むかもしれない。乞うご期待。 PR |
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