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人によって惹かれる要素は異なるだろうが、私には『私が好きな写植文字、「イボテ」「イダシェ」「イナミン」等の作者である』稲田茂氏が手書きで仕上げた書体サンプル2100である。既刊かつプレミアがついていた3冊をまとめたもの。

中身はこちらを見てほしい。これが延々続く。眺めていることが楽しい。『ピクトさんの本』『タイポさんぽ』と同じカテゴリに、専門家ではない私は感じる。

ただし、本書に掲載されているものはトップのグラフィックデザイナーが描いたものなので、まったく破調がない。「お花ライズ」やクリーニング屋さんのクルクル文字につながる要素も収められている。それらは、まだまだ健全な姿をしている。そういう意味では「眺める」楽しさには若干欠けるかもしれないが、質の高いものをたくさん見ることは、街中で破調タイポに楽しさを見出すことにもつながるだろう。

(関連項目)タイポさんぽ(藤本健太郎著/誠文堂新光社)

* * *

1990年代、漫画のタイトルや男性週刊誌の記事タイトルは「レタリング屋さん」が描いていた。私が週刊漫画誌に携わっていたときは出版業界も漫画業界もまだまだ右肩上がりの頃でもあり、読み切りの1本のためにさえ、ロゴを制作してもらっていた。レタリング屋さんは独自に本書のような「書体見本」をもっており、我々編集部はそれを見て「○番のように」と発注していた。たいてい、ケント紙の上にペンで描かれた原本が届くので、それを写植屋さんに依頼して紙焼き(印画紙出力した白黒2階調のプリント)を作ってもらった。連載の場合は複数の紙焼きを作り、タイトルページの上にトレーシングペーパーを貼り、その上にその紙焼きを写植糊でダイレクトに貼り、「右下シャドウ5mm」などと指定して入稿していた。

一般的に、レタリングロゴひとつ2万円~3万円くらいだったと思う。漫画の1ページあたりの原稿料を考えれば、読み切りなら、ロゴなどなくていいから漫画家に多く支払ったほうがいいのではないか…といまなら思う。そういえば一度、平行すら出てないレタリング屋さんに5万円請求されたことがある。さすがに「それはないんじゃないの」と交渉したが、相場としてはそういう金額だった。先日、そのロゴ屋さんの前を通ったら、いまでもその名称で事務所があり、とても驚いた。まだ仕事があるのか…!

その後、勤務先に限らず各出版社はPCを導入しはじめ、安価なダイナフォントで作られたロゴが氾濫しはじめる。『のだめカンタービレ』のロゴなどを見ると「最初は金かける気がなかったんだろうな」というのがよくわかる。映画版はよくがんばってアレンジしたと思うが「のだめ」の文字にも手をつけて欲しかった。

* * *

いまでもこうしたレタリングが生きているのは、漫画や文芸書、映画のタイトルだ。既存のフォントに似ていても、よく見ると手書きで起こされているものもある。それがベクトルデータでできていたとしても、だ。そういう目で、そういう部分を見て欲しい。なお、それ以外のジャンルは既存のフォントを使っていることがほとんどだと思う。装丁家に存分に仕事ができるのは漫画や文芸書だから、そこに人が集まるのだ。

なお、いま、文字は「フォント」と呼ばれることが多い。看板屋が手書きで書いた文字さえも、だ。しかし「フォント」は近代PC(MacあるいはDOS/V)と同時に導入された「一揃いの書体」という概念だと私は定義している。だから、本書に掲載されている文字を「フォント」とは言って欲しくないというのは個人的願望。

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