まず最初に。
本書は、前提となる知識のない人が読んではならない本である。1960年代から1980年代半ばまでの佐藤栄作から三角大福中をめぐる政治・政局、総評・産別と政党(社会党右派・左派、共産党、民社党…)の関係や労働運動の指導者といった労働組合史の基本、官公庁労組と民間労組の違い、海外の労働運動、国鉄の経営計画、そして分割・民営化の中を泳ぎきった「三人組」などについて、基礎的な知識がないと誤読してしまう。「当時の官公庁の労組としてはこれが常識だった」という観点を持たずに現代の民間の労働運動や労働を取り巻く環境の知識しかないと、行動原理など意味がわからないと思う。その点、強くご留意いただきたい。ここに書くのは、私がそれらの目を最低限は持っているとして、読んだ感想である。 国鉄が分割民営化に走っているときに、国労の企画部長だった秋山氏の手記。葛西、三塚、大野、屋山ほかさまざまな立場からの国鉄改革話や[『戦後史のなかの国鉄労使』などと比較して思うのは、この人には、最終的に目指す具体的なものがないということだ。 本書では繰り返し「平和と民主主義」をめざしているというようなことが書かれている。しかし、その「平和」が何を指すのか、その「民主主義」が思い描く体制はどうなのか、そうしたことは一切出てこない。支持母体は当時の社会党である。その社会党は、国労など官公庁系の組合員に支持されていたのであるから、逆に言えば民間企業に勤めている人は、そうした主張に耳を貸すこともなかったということになろだろう。 同様に、具体性がないのが「なぜ、自分たち(太田派)が主導権を握る必要があるのか」という点だ。なぜ動労、向坂派、革同などが「(指導層ではない)ごく一般の労働者の権利の主張」を指導することに反対なのか、それが一切書かれていない。それぞれの思想やいろいろがあるにせよ。 そして、ものすごい頻度で出てくる「国労の誇り」「プライド」という言葉。もう、うるさいほどに。私は個人的にプライドなどというものは糞くらえと思っている。そんなものがあるから他人を妬んだりバカにしたりすると思っている。ここで描かれている「総労働」たちは、「上から与えられた仕事」を生産性の向上も意識せずに、「仕事を完遂することに対する誇り」ではなく「国労の誇り」などという得体の知れないものに酔いしれている。 JR化後の、JR総連に対してJR連合を結成するくだりも、その具体的な理由が欠如している。旧動労が主導するJR総連がJRに対して「国鉄改革時に広域転配などに積極的に協力してきた自分たちをさしおいて、最後まで反対して瓦解した国労に情けをかけるなどとんでもない」と主張することを「旧動労の驕り」と書いているが、そうした動労の考え方の何が驕りにあたるのかは書いていない。だから、字面通りに読めば、結局は国鉄の労働組合としての、さらには国労内での主導権争いにしか見えない。いや、もちろん、秋山氏と対立関係にある各派の裏の思想や行動というのは私は知識として持ってはいるが、そこはきちんと書かなければならないところだ。 著者周辺のことを言えば、著者が労働運動に携わるのは、いちばん最初に勤務した鉄工所での本工(正社員)と臨時工(契約社員的な存在だろう)は同じ仕事をしているのに、なぜ待遇が違うのか、ということだった。でも、そのような雇用関係が当時よりも相当にひどい現在においては、労働運動から離れている。そこにも、とても違和感を持つ。そういう思想を持っているならば、いまこそ労働運動をすべきなのではないか? これも、著者に対する違和感として残るというか、読後、こうした気持ちが持ち上がってくる。 これらのこと以外で本書が有益な点といえば、国鉄が経営権を組合に切り売りしているやりとりが生々しく書いてあることだ。経営権の切り売りが、労使関係をおかしくした。また、「マル生」をつぶした毎日新聞の内藤国夫が、1982年、国鉄経営陣が強硬派となったときには あっけなく国鉄の労組を見捨てたあたりも書いてある。内藤国夫は、屋山太郎や大野光基によれば「騒動屋」(自称している)であり思想もなにもない人物なので、 さもありなん(屋山や大野の著書による)。 こういった内容だということはある程度は予想できたが、上記の生々しいやりとりと、内藤国夫のことを知ることができるあたりに価値があると思う。
* * *
冒頭に本書のカバーがあるが、帯をめくってみた。すると、新幹線が顔を出す。本来、この写真はそれを意識して撮影されたものだろう。しかし、それを帯がかき消してしまう。 本体表紙。カバーの上半分ほどを拡大して表1、背、表3までに流し込む。印刷はごく薄い。 なかなかすてきな装丁だと思う。帯のキャッチはとてもチープなんだけれども。 本書については、企画屋 PR |
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