本書は「燃料電池自動車の…」と銘打ってはいても、それがメインではあるが、モーターで動く電動自動車全般について、現時点で俯瞰し、それぞれの長短をまとめた本。ミライ(FCV)、リーフ(EV)、プリウス(HV)といった「電動自動車」、そして比較対象としてガソリン自動車が登場する。 本書では、まず、ミライの加速感やレスポンスのよさ、コーナリング特性などが、読者が試乗していると感じられるように書かれている。そして、その理由が構造にあることを説明し、こんどは構造そのもの…構成部品とエネルギー源についての説明をしていく。私は20年ほど四輪駆動のワンボックスディーゼル車に乗り続けているので、普通のガソリン車などに乗るとその曲がりやすさにびっくりするのだが、電動自動車の運動特性は、おそらくそれよりさらに印象的なものになるのだろう。電動自動車に、そんな「乗りこなす楽しみ」があろうとは想像もしなかった。純粋に「新しいタイプのビークル」として、乗ってみたいという興味が湧く。 全般に、説明はとてもわかりやすい。それは、なるべく特長を単純化して長短を描く、という書き方にある。「なぜここにこの部品が使われているのか」「なぜこのエネルギー源なのか」「なぜこの駆動システムなのか」が、言葉で説明されている。化学式などはほとんどなく、記載されている理科的知識は中学レベルくらいか。それすら忘れていたとしても、十分読みこなせるはずだ。 また、トータルコストや、そもそも電動自動車を作る際にガソリン自動車よりも余計にエネルギーを使ったり環境負荷を増大させたりしないのか、ということまで検証されている。本を「商品」として考える時、こうした時事的な情報はあまり載せないものだが、そもそもミライやリーフという車種を採り上げているので、そこだけ普遍性を持たせても仕方がない。だからこそ、2016年という今の時代を反映したワンテーマ新書としての思い切りのよさを感じる。そして、実は、5年後、10年後に、2016年にこの本が出たということに、意義が出てくるものだろう。 カバーには、サブタイトルとして「水素で走るしくみから自動運転の未来まで」とあるが、自動運転についてはページ数は少ない。こちらは「ハード」ではなく「ソフト」だからだろうか。自動運転については、例えばゼンリンが国内の道路の3次元データをかなり詳細に取得してデータ化しており、そうしたデータをもとにソフトがクルマを動かすことになる。本書は「ビークル」の説明を主としているので、ソフト面は主題からずれてくるかもしれない。それはそれで、専門の本が出るべきだとも思う。 年々、排ガス規制の厳しさは増している。だからこそ、電動自動車がもっともっと安価になり、個人的には、ハイエースに早く安価に搭載されることを願う。 ●関連項目:川辺さんの本 『鉄道をつくる人たち』(川辺謙一著/交通新聞社) 『鉄道を科学する 日々の運行を静かに支える技術』(川辺謙一著) 『図解・首都高速の科学』(川辺謙一著/講談社ブルーバックス) 『東京総合指令室』(川辺謙一著/交通新聞社新書) PR
青函連絡船の本は多数刊行されているが、いずれも船舶、運航、ヒューマンドラマが主題であり、営業についてはなぜかほとんど触れられていない。ネットで検索しても、わずかに函館市史の記事がヒットするだけであり、あらゆるものが転載されているネットにない、ということは、まとめて発表された記事がほとんどないのではなかろうか。青函連絡船のそれに関心を持つ人はごく少ないことも一員だろうが。
函館市史のそれは、こう書いてある。「連絡船の営業成績は低下の一途で営業係数は昭和55年の227から58年の292(100円の収入を得るのに経費が292円)にまで下がってきていた。この58年度の赤字は238億円だったという」 いくつかの正史を図書館で見ても、乗客数やトン数こそあれ、営業的な数字は掲載がなかったのだが、『航跡 青函連絡船70年のあゆみ』に掲載されているとの情報をミリンダ細田氏(鉄道友の会秋田支部)からいただいたので転載し、先の函館市史のものも加筆する。 (表がうまく表示されないので、見づらい点はご容赦ください) 年度 旅客 貨物 収入 経 差し 収支 収入 収入 合計 費 引き 係数 昭和45年度 32 76 108 126 ▲18 117 昭和46年度 34 85 119 129 ▲10 108 昭和47年度 36 79 115 143 ▲28 124 昭和48年度 36 68 104 159 ▲55 153 昭和49年度 38 72 110 206 ▲96 187 昭和50年度 38 75 113 238 ▲125 267 昭和51年度 39 85 124 267 ▲143 215 昭和55年度 227 昭和58年度 ▲238 292 となる。上記から推定するに、昭和50年度から62年度の13年間での赤字額は2500億円を超えるだろう。その数値と、さまざまなことを比較するには私の手元ではあまりに数値が足りない。 こうした数値がわかる資料が掲載されている雑誌等、ご存じの方はご教示いただきたい。 【2016/3/4追記】 ・資料をご提供いただいた細田氏からは「定時運行に固執するあまり、高速性を最重視し、経済的な重油ではなく軽油を燃料にしたことも一因ではないか」「旅客輸送量のピークは昭和48年」とのコメントをいただいた。 ・昭和49年度から、経費が激増している。第一次オイルショックは昭和48年10月から翌年1月までの3カ月で、原油価格は3.9倍となった。それを背景としたのが「狂乱物価」で、総合卸売物価は昭和48年で15.6%、49年で31.4%上昇、消費者物価指数は48年で11.7%、49年で23.2%上昇。対して、運賃値上げは49年に5年ぶりに行われた(青函連絡船の運賃の変化は未調査)。 ・経費の内訳が、燃料代なのか人件費なのか、知りたいところ。オイルショック後であるだけに。 ・
新潟県統計年鑑を見ていたら、おもしろいデータがあったのでまとめておく。「鉄道除雪状況(JR東日本新潟支社管内)」というものだ。
なぜかうまく表が作れないので、多少見苦しい点はご容赦を。 表でいう「DDロータリー車」。米坂線、2004年2月。 ●DDラッセル車およびDDロータリー車
2004年度と2005年度は、とりわけロータリーの出動が多い。当時のドカ雪を覚えている方も多いだろう。十日町では、私のハイエース(車高2m)をゆうに越す雪が道路脇に積まれていた。対して2008年度の少雪は、これまた記録的レベルだ。 「DDラッセル車」にはDD15だけでなくもちろんDE15も含まれているだろうし、「DDロータリー車」にはDD14とDD53が含まれるだろう。 ●小型雪かき車
「小型雪かき車」とは、保線用の排雪モーターカー(ハイモ)のことだろう。こちらはラッセル・ロータリーの区別がない。 「DDラッセル車」。只見線、2005年1月。 「小型雪かき車」。只見線、2004年? 上記は「除雪用機関車」と「保線用モーターカー」の出動例だが、2007年度からは「投排雪ラッセル/ロータリー」の記録もある。これは、ラッセル・ロータリー兼用の新型モーターカー、ENR1000だろう。 ●投排雪ラッセル/ロータリー
ENR1000。飯山線、2014年12月。 子供のころ、東新潟機関区にDD53、DD21が配置されていたのが誇らしく、とはいえ稼働していることはついぞ見ることができなかった。ディーゼル機関車は、趣味的には長く冷遇されていたが、2000年代に入り、被写体として注目を浴びつつも、その運転情報を得ることが難しく、そういう意味でも「煽り」の先鞭のようになってしまった。まだデジタルカメラやSNSが普及する前でさえそうだったので、いまならさらなる「祭り」になってしまうことだろう。宗谷本線のDE15が人気だが、遠方ゆえ、そこまでになっていないのは幸いかもしれない。 私が撮ったDD15は狙っていったものだが、DD14は、いずれも偶然の出会いである。 「DDロータリー車」。上越線、2005年1月。 「DDラッセル車」。只見線、2005年1月。
グッドデザイン丸の内で開催された「『軍艦島3Dプロジェクト』トーク:軍艦島3Dプロジェクト x 廃墟賛歌 O project」に行ってきた。「軍艦島3Dプロジェクト」とは、長崎市が長崎大学インフラ長寿命化センターに委託した事業で、軍艦島をレーザー測量し、そこにドローンで撮影した2万枚に及ぶ写真(から2000枚【2/27修正】)を貼り込んだ「軍艦島バーチャルリアリティ(VR)」で、さまざまな活用が期待される。この作業は、もともとは、橋梁などのインフラの点検を安全に、経済的に行うために開発されたものだ。
トークイベントの前半は、同センターの出水享氏と、「大人の社会科見学」そしてなにより池島でのご活躍で有名な小島健一氏による、このプロジェクトの説明。国内外のインフラの寿命、損傷、資材の曝露試験などの話から、土木や建築関係者の視点からすると、軍艦島の建物群は鉄筋コンクリート建築物の経年劣化のリアル試験体であるために熱い視線が注がれ続けていることなどを説明。 もともと、電通大の阿久井喜孝氏により観測が行われ、『軍艦島実測調査資料集―大正・昭和初期の近代建築群の実証的研究』というものが30年以上前に刊行されている(何度か追補・抜粋するなどして復刻されたが、初版はプレミアム価格になっている)。ちょうど100年前の1916年築の30号棟などは、建物内の柱のそこかしこに試験体をえぐりとった跡がある。 そうして作り上げた軍艦島3Dモデル、動画化されたものはこちら。この3Dモデルは、例えばGoogleEarthで読み込めたり、ゲーム機で操作できたら本当におもしろいコンテンツになると思うのだが、長崎市がお金を出した事業ということから、なかなかそうした用途に使うことは難しいようだ。しかし、長崎大学側は、ぜひさまざまな活用をしたいと働きかけているようだ。素人考えでは、ゲーム化すれば、それだけで長崎市が拠出した金額はまかなえるくらい売れるのではないかと思うのだが…。 * * *
後半は、オープロジェクトの黒沢さん・大西さん・山内さんを迎えての、バーチャル観光。軍艦島の観光上陸で回れる部分はわずかに島の4分の1ほど。しか し、彼らはまだ三菱時代(黙認されていた)から数十回の渡航を数え、現地を知り尽くしている。私も『軍艦島入門』取材の際には黒沢さんに手取り足取り教え ていただいた。 まずは、大西さんによる、プラネタリウムでのドーム型映像「軍艦島 球景」やGoPro6台による360度動画撮影の様子などの話。そしていよいよ、バーチャルツアーだ。 PCで操作するために解像度を落としてあるとはいえ、「ものすごく精緻なGoogleEarth」と思っていただくと、イメージが湧くと思う。 X階段の細さがよくわかる。(写真は画面を撮影したもの。この写真ではちょっと赤みがかって見えるが、実際はそんなことはない) 病院の、看護師の寮だった部屋。外に忍び返しがついていたこともよくわかる。当時、ドローンがあったら大変だ。 こんな風に、寄ったり引いたりして、あっというまに時間をオーバーしてトークは終わった。この3Dモデル、自分でじっくり触ってみたい。たぶん、現地を訪れたことがある人なら、さわりながら「これは何?」と質問したい人もたくさんいるだろう。すばらしい成果物なので、どうか長崎市は独占せず、パブリックドメイン…とまではいかなくとも、望む人には使用を許可してほしい。 * * *
さて、このトークがグッドデザイン・丸の内で開催されたのは、この「軍艦島3Dプロジェクト」が2015年のグッドデザイン賞を受賞しているからである。そこには、そのデータを元に3Dプリンタで作られた30号棟の模型がある。また、同じく2014年に受賞したヘッドマウントディスプレイ「ハコスコ」でVR映像を見られるようになっている。これらをちょっと…したいと思っている。 追伸: 内容ではなくイベント運営についてちょっと細かいことを言うと、せっかくの大画面、たしかによく見えるのだけれども、会場がガラス張りで外光が入って反射するので、そのあたりは検討の余地あり。また、公式カメラマン(?)がイベント中に写真をたくさん撮っており、連写するシャッター音がかなり耳障りだったことも申し添えておく。アンケートに書きたかったが、紙だけ配られて筆記用具がなかったので書けなかったのだ(持っていたボールペンが出なくなっていた…)。 2/27追記: 会場側は来場者の写真を撮っていたが、来場者が出演者の写真を撮っていいかのアナウンスがなかった。いまはSNSで書いたり、それを共有する人も多いので、せっかくのイベントを「広める」意味ではそうしたことを逆に「してほしい」とアナウンスし、さらにはハッシュタグ作るなどすると、よりよいと思った。なお、私は、出演者のみなさんは撮影OKのトークイベントにもよく出演されているので、勝手ながらこうして写真を撮ってアップした。問題がありましたらtwitter等でご連絡いただければ幸いです。 |
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