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興味深い点と、よろしくない点と、非常に評価の難しい本。

本作り、つまり「原稿を書く/入稿/校正/校了/印刷」という行程を知らないと、「つくりかた」の説明をするのは難しい。たいてい、こうした裏方作業の話は印刷工程における苦労話や極端なエピソードなので、うっかりすると「時刻表ならではの作り方」ではなく、「通常の本作りのプロセス」になってしまいがちだ。そのあたりのバランスにはかなり苦労しただろう…と思いきや、どうも全然苦労してない雰囲気も漂う。つまり、「通常の本作りのプロセス」に終始している。

「時刻表ならでは」の部分が、少なすぎると感じる。「時刻表ならでは」の部分は、全体の数分の1程度しかないのではないか。執筆は分担制なのか、専門用語が解説なしで出てきてあとから注釈が入ったり、注釈なしの専門用語が散見されるのも残念だ。

例えばP70、APRという樹脂版(いわゆる樹脂凸版)での作業について「清刷を所定の場所に配置してカメラ撮りをしてネガを作る」と書いてある。「カメラ撮り」とは、確かに印刷所の人は、そう言う。でも、普通は「カメラで撮る」という行為は「撮影」と言う。そして、これはまだ「スキャン」が一般的ではなかった時代の技術だ(現在でも大判の図版は「カメラ撮り」をする。『空から見える東京の道と街づくり』の地図の一部はカメラ撮りをした)。ここは注釈が絶対に必要だ。

樹脂版にしても、私は週刊漫画雑誌で実物を扱っていたのでよくわかるのだが、若い編集者にすら伝わらないだろうこの部分、読者にはもっと伝わらないに違いない。この部分を解決するためには、その樹脂版の写真があればいいのだが、本書の最大の欠点は「写真や図版がない」ということである。

参考:樹脂凸版(東レのトレリーフ)ー要するに、このぺらぺらが「ハンコ」の役割を果たす



同じく「活字」と「DTP」の違いについても、もっとわかりやすく書かねばなるまい。

参考:鉛活字を並べるということ(印刷博物館)

活字の時代、駅名や罫線が撚れた。それを説明するためには、実際に昭和40年代の、活字を使っていた時代の紙面と、現在のDTPによる紙面とを見比べさせないといけない。例えばこういう風に。

1980年4月のコンパス時刻表。紙面の文字に凹凸があり、見るからに活版印刷だ。みどりの窓口マーク、駅弁マーク、「急行」マーク等は、特殊な活字である。本書には写植に切り替えたのは1987年とあるので、それまでは鉛活字とその罫線を組んでいたはずである。上写真で薄く赤になった部分をご覧いただきたい。この時点では活字を一度樹脂版に置き換える方法だったとは思うが、活字の罫線は途切れるところがある。また、矢印は、矢羽根/シャフト(?)/鏃がそれぞれ別パーツなので、それぞれの間に隙間がある。

そして、右上カドの縦罫のように、ときに曲がる。これは樹脂版が歪んだのか。

縦長ピンクの線の場所、横書き文字なのにおかしな隙間がある。これも罫線、というか空白スペースのなせるワザ。上段、枕崎発山川港行きだが、時刻の「1136 1207 1313 1400」とそれぞの間にわずかなスペースがある。これが、上下の、横書き日本語にも干渉してくる。これは、活字を並べるとき、時刻を基準に、そこにスペーサーを挟み込んでいる、と思ってもらって差し支えない。


いや、これらはまだ古い時刻表を持っている人には直感的にわかるかもしれない。本書でもっともダメな点は、時刻表製作に欠かせないという「フンドシ」の写真がないことだ。まったくイメージがわかない。

本書は「ヨンサントオ」の通り一遍の説明などを掲載するのではなく、裏方作業を知ってもらう本に徹して、こうした部分にもきちんと解説が欲しかった。非常に残念だ。


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