『東京ぶらり暗渠探検』を刊行した洋泉社から刊行された『川跡からたどる江戸・東京案内』。編著者は菅原健二氏、『川の地図辞典』の著者だ。クレジットを見ると、もう一人長田ゆき氏という著者がいて、ともに東京都中央区立京橋図書館に勤務している。会社の近くだ、というか何度も利用している。
私は大きな勘違いをしていた。この本は、埋め立てられてしまった河川を土木的な観点で解説するものではない。ここにこう水路があって、それがいまはこうなって…というものではない。タイトル通り、「江戸・東京案内」なのである。内容は、何年に誰が何をした、何年にはこうなった、当時の様子はこうだった、と文章で書き連ねてある。 私の勘違いは勘違いとして、私の観点で書く。 この本、明治時代の地図が適当に載ってて、すでに埋め立てられてしまった河川について載ってそうだから買ったのだが…あまりに図版が少なすぎる。著者は地図を見ながら文章を書いているのだろうが、その地図を読者にも見せてよ。 一体、この本に書かれている内容を、地図を見ずに位置関係を把握できる人間が何人いるのだろう? 現存していない地名を羅列するのであれば、図版としては、「現在の地図」と「現存しない地名が書かれた地図」を併載し、さらにそこに川の跡をプロットするのが筋だろう。そういう地図がないわけではないが、それがあまりにいい加減な地図なのである。明治13年測量の地図などもあるのだが、縮小しすぎて読めない。現在の道路や地名との比較がないので、それとわからない。地図はほぼすべて「京橋図書館蔵」なので、そうやってコストを節約したのではないか。 では、と自分で記載事項を頼りに地形図に川跡をプロットしようとしても、現在の地形や地名とは大きくことなっているので、どこにプロットしていいかわからない。やはり、当時の地形図が掲載されていることが重要なのである。本書は、東京の消えた地名まで完璧に把握した人物を読者として想定している本になってしまっている。 単価が数百円あがってもいいから、きちんと図版を入れて欲しかった。それにつきる。 また、明治時代の地図に付された注記が解せない。 「明治13年測量の…」とあるのだが、そこには、当時開通していないはずの鉄道や駅があり、当時はないはずの市街地がある。測量と編集は、完全に分けなければならない。測量など、とくに古い時代はしょっちゅうするものではない。一度測量した結果を延々何十年も使って、そこに「編集」として資料や現地調査から地図を作り上げていく。だから、昭和も50年代になっても、山間部などは明治時代に測量したものをベースにした地図しかなかったりするのだ。ここは「測量年」ではなく「編集年」を記載すべきだ。 一方、先日、白水社から刊行された今尾恵介氏の『地図で読む戦争の時代』を入手した。今尾氏の著作は主観で自分の意見を述べるものもあるのであまり期待していなかったのだが、さにあらず。いま読んでいるのだが、地図の本ではなく、地図を見続けた人ゆえの思想を語る本のような気がしている。レポートはいずれ。 PR |
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