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(画像は中公新書のサイトより)

同名シリーズの第三弾。カラー新書で256ページもあり、それでいて1050円という驚くべきボリュームの本だ。

既刊の『地図と愉しむ東京歴史散歩』『同 都心の謎篇』は、どちらも1万分の1地形図などを掲載しつつ、地図から見つけられる不思議なことを紹介していくものだった。地図をテーマとした本は数多あるが、たいていの場合、著者が見つけて披露したいことと、読者が興味を持つ場所とは異なる。読者が関心を持っているのはかなり狭いエリアではないかと私は思っている。

本書のように「東京」と絞るのは、一見、本の売り方のセオリーに反するのだが、東京の人口、知識欲のある人の割合の高さ(※個人の印象です)からして東京オンリーというのは十分になりたつ。本書は、内容をこの2年ほど特に世間的な関心が高まっている地形に振ったものだ。地図にも、新たに5mメッシュ標高データをカシミール3Dで重ね合わせたものとなっていて、直感的にわかりやすい地図となった。

* * *

第一部として「東京の不思議な地形を歩く」、第二部は「東京お屋敷山物語」と題して全11章仕立て。本書の特色というか、著者が書きたかったのはこの第二部だろう。

第八章 元老・元勲の山
第九章 宮さまの山
第十章 華族の山
第十一章 富豪の山
都心の「山」のお屋敷リスト

という構成となっている。よくもまあ、これだけの動静をまとめたものだ、と思う。

『「水」が教えてくれる東京の微地形散歩』を制作したとき、五千分一東京図測量原図(いまはカシミール3Dのタイルマッププラグインで簡単にできる)や大正6年の地図に標高データをカシミール3Dで与えたところ、とくに東京の南部は高台の上が真っ白=大邸宅であることが顕在化した。当時の地図において、お屋敷は、どういう基準なのか私にはわからな いが、「閑院宮邸」「三井邸」「山本邸」(権兵衛)等の情報が書いてあった。それらを丹念に拾い、現在の地図ではどうなっている かを見て、そこから考察に進めていく。そのためにはそこに住んでいた人の家系、業績も知っていなければならず、著者が本書のため にした下調べの量を考えると気が遠くなる。

本書でおもしろいのは、単に事実の羅列をひたすら展開するのではなく、例えば宮さまがなぜそこに住んだのか、なぜその土地を手放したのか、その後どこに転居したのか、その後土地を手に入れた人は誰で、どういう考え方をしているのか…等まで考察されているこ とだ。これは、従来の、土地を読み解くだけの本ではなしえないもので、著者の丹念な調査あってのものだろう。しかし、両刃の剣でもあり、そこに出てくる名前や業績を、つい手元の端末で調べながら読んでしまう。だから、なかなか読み進まない。 これは、単なる土地利用だけでなく、土地やその形状は人(ここでは政治家や実業家)の生活とも密接に結びついていることの裏付け でもある。本を読み進むことによって、土地と人との関係を自然に感得できるのが、この本のすばらしい点だ。

とはいえ、まとめた地図と文章だけでは、宮さまや将軍家の幕末~明治時代の動きを知らない私のような者には、いささか頭に入ってきづらい。実業家だって、彼らの閨閥が頭に入っているわけではない。こういう場合に電子地図または電子書籍が活用されるといいなと思う。たとえば宮さまの邸宅は赤、実業家は青、政治家は緑…というように色分けし、それをべきで、明治初期・中期・後期・関東大震災後・戦前・戦後・昭和30年代・40年代の地図にプロットしてアニメーションにすれば、宮さまの邸宅ができ、実業家の手に渡り、やがて庶民のマンションになる、というようなことや、潮が引くように都心から大邸宅がなくなり、そこが公共または商業施設になっていくさまがよく飲み込めると思う。

電子地図会社が音頭を取って、各社の地形本をそのようにする、などという動きがでないものだろうか。といっても、課金がなあ…。


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20120800_002.JPG『ピクトさんの本』『100均フリーダム』の内海慶一さんのツイートで、この本を知った。街中の、極めて私的なタイポグラフィを愛でる本。

この本が秀逸だと思うのは、読者が自ら同じことを始めてしまうという点だ。私がこの本のことを知ったのは八重洲地下街で昼食をとっていたとき。すぐに八重洲ブックセンターでこの本を買い、自分とタイポについてツイートしてしまっていた。そして、その午後には内海さんにより#街角タイポというタグが作られ、いろいろな人がツイートしはじめた。恐ろしい感染力だ。

ある特定のセンスを持った人たちがそれぞれ個人的に日常的に眺め、独り言のように脳内で鑑賞していたものが、ひとたび発表の場を提供されると、堰を切ったようにあふれ出す。溜め込んでいた写真を吐き出し、語り始める。自分とタイポグラフィを見つめ直す。その瞬間を目撃できたのは、とてもすばらしいことだ。著者の藤本健太郎さんは、きっともっと嬉しかったに違いない。


本書のもうひとつのすぐれた点は、書かれていることに対して、自分ならここに注目するだとか、これに似たのがここにあるとか、口を挟みたくなることだ。著者がただ一方的に見せるだけではない。本と会話ができるのだ。

本文に通底するのは、詠み人(著者は、市井のタイポグラファーをこう呼ぶ)の発想の自由さを、かなり遠くから読み取り、かといってそこにデザイン以上の意図を読み出さない、その姿勢だ。それをあげつらったりもしない。古いとかダサいとか見下す気持ちもない。一所懸命した仕事に対する敬意は少しだけある。内海さんの『100均フリーダム』に通じる鑑賞だと思う。もともと、詠み人の側には県章や市町村章にあるように「ここが円形なのは調和を意味している」みたいな、むりやりな意味づけがない。だから、そういう読み取り方をしなくてもいい。タイポも本文も押しつけがましくないから、読者が自分の解釈をする余白がある。そこが、すばらしい。

願わくは、本書の劣化コピーのようなチープな本がコンビニの500円本みたいな形でハゲタカ版元から刊行されませんように。


タイポさんぽ(版元公式ページ)
●私の過去ログにおける駅名標のタイポさんぽ:昭和50年代の駅名標(越後線)その1


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