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書店店頭で見て驚いた。こんな本が出るとは。

1946年生まれの著者は、国鉄の労働問題がもっとも深刻だった頃に東京機関区に勤め、国労に所属し、東京機関区廃止後は大井機関区、JR発足後はJR貨物の大井、そして新鶴見へと勤めた人物。書店店頭に1冊だけあり、サンプルとしてカバーにビニールがかかっていたので、きれいな本がないか書店員に尋ねたら「今日、たくさん売れているのでこれが最後の一冊です」と言われたので、それを買ってきた。

版元は、えにし書房。カバー表4には「取引代行」のシールが貼ってある。要するに、小さな版元による少部数の本だ。だが、本の質に版元の規模など関係ない。その書店に何冊の配本があったのかはわからないが、ふらりと書店を訪ねて本書に出会った鉄道ファンは、きっと買わずにはいられなかっただろう。私がそうだった。強烈な印象を受けた。

* * *

本書は写真集だが、4章構成となっている。それぞれの章に短文が添えられ、写真には、外部の人間にはわからない、国鉄に働く人ならではの機微を込めたキャプションが添えられる。

第1章 わが東京機関区
第2章 闘いがあった
第3章 「つるそう」解体
第4章 「定年」退職

この章立てにあるように、著者はJR貨物退職まで国労に所属していた。そして、そのことをいまでも誇りに思っている。労働運動が政治的なスローガンを掲げていることを肯定している。一方で、それに複雑な気持ちを抱いていることも感じさせる雰囲気もある。

私のブログでは国鉄の労組を扱った書籍についてもいくつか書いてはいるが、ここでは著者の主張についてはおいておこう。そんなことより、写真だ。写真がすごい。



常々、写真こそもっともジャーナリスティックなメディアであると思っているのだが、本書はそのうちのひとつだ。国労による写真集ではないのに、スト中の様子、デモの様子、「スト破り」をした機関士と彼らを取り巻く環境、そうしたものが記録されている。当時まだ30歳にもならない著者は、鉄労の機関士を取り囲む動労・国労の集団や、デモに参加させられる子供、いじめのような区長への嫌がらせなど、さまざまなことを考えながらシャッターを切ったに違いない。なにしろ、別のカットでは区長と仲良くしている写真まであるのだ。もっとも、そうした複雑な感情、人間関係は、現代の感覚では理解できるものでもないだろうし、ましてや部外者が勝手に解釈してはいけないとも思うのだが、それでも読み取るならば、そういうことだろう。

現代の感覚では、国に準ずる機関が、毎年殉職者を出すような労働環境の職場を持っていたことにまず驚く。いまのJR、いまの「働き方」しか知らなければ、信じがたい世界だ。まず、入社したらトイレ掃除から始まる。まだ十代の男たちがナッパ服を着て肉体労働を強いられる。我慢してると次のステップを登る資格を得られる。勉強次第でステップを登れる。その繰り返し。

一方、労働環境としては、所属が異なる同僚を敵視し、暴力も辞さない職場。民間なら当然なされる合理化ができない職場。定年までずっと同じ仕事をし続ける人たちばかりの職場。異動などはありえない職場。結果、国は、膨大な人件費を余計に支払うはめになる。そうなったのはそれなりに理由があるが、現在、国に準ずる機関におけるそんな労働形態は、もうないのではなかろうか。


機関区勤務でなければ撮れなかった写真たち。乗務員の視線、検修の視線。「労働者」としての視線。同僚としての視線。職場が家族であるかのような時代の空気。本書に収録された写真のほとんどは、鉄道ファンには物理的にも撮れないし、作品化することなどなおできない。

本書は2700円+税と、決して安くはない。しかし、本書には、鉄道趣味誌が目をつぶってきた「職場としての鉄道」の現実と、現代の視点では夢のようなこんな職場がかつて存在したということが封じ込められている。よくぞ刊行してくれた。写真も文章もすばらしい。

いまからたった30年、40年前の国鉄ではこんなふうに仕事をしていたのだ。そういう働き方ができた時代だったのだ。そういうことは、国鉄、国鉄と言っている多くの鉄道ファンに、できるだけ理解してもらいたいと思っている。だから、買ってほしい。








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