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川辺謙一さん渾身の書。そういえば、私がイメージできるのはCTC指令室くらい。変化が早すぎて「現代の」ではなく「現在の」指令室がどうなっているのかは考えたこともなかった。本書は「現在の」ATOSこと「自律分散型列車運行管理システム」を最大限に活用したJR東日本の指令について、とてもわかりやすく解説した本だ。

「とてもわかりやすく」というのは、本書は鉄道ファンが理解できればいいように(鉄道ファンならすぐ理解できるように)書かれたものではないということ。ファンにとっては基本とも思える用語も一般的な言葉で説明してあり、車両形式は一切出てこない。「指令」もそうだが、現場がその用語を使っていて、どうしてもその用語を使わないと説明できない単語のみ、注釈をつけて使っている。おそらく、一般の人が読んでもすぐに理解できるのではないか。そういう意味では、交通新聞社新書ではなく、一般の、例えば中公新書などでもよさそうな内容だ。

* * *

鉄道は、さまざまな面で趣味的に惹きつけるが、巨大な運行システムを人が動かしている、というところに惹かれる人も多いだろう。複雑な配線、複雑な条件がある車両の運用、乗務員の運用。趣味誌にも一切採り上げられない電力事情。保線。ほかにもいろいろな構成要素があるだろう。では、どうやってその運行システムを統合して動かしているのか。

先に「人が動かしている」と書いたが、本書には「(指令は)セオリーはあるがセンスが問われる仕事だ」と書かれている。また、最新の成果として、2013年2月21日の武蔵野線新秋津駅での車両故障の際の運転整理を例に挙げ、利用者すら驚くワザで輸送を確保したことが書かれている。そうしたおもしろさを、運行システム管理の説明の中で感じられるように本書は作られている。

一方、その裏で感じたのは、運転の現場の業務の硬直性というか、「鉄道」という職場の特殊性だ。例えば運転士の総労働時間や連続して運転できる時間には上限があり、また各運転士はそれぞれ運転できる路線や経路が決まっている。列車ダイヤが乱れたときでも、それらを破ることはできない(ということも本書には書いてある)。一般の感覚からすれば、残業を命じられることはあろうし、突発的な超過勤務になることもあろう。それになぜ対応できないのか。それは、対応できなくて当然のものなのか、それとも「鉄道」という職場の特殊性なのか。ある人に聞いた、「鉄道の社員は、自分たちは運輸の専門家である自負が強すぎ、ものを売ったり営業したりなどする必要がないと思っている人が多い」という言葉が思い出された。

これには労組の問題も多々含まれると思うし(*)、訓練の容量の問題もあろう。本書では、ATOSの運用を続ける中での社員の意識の変化、あるいはJR東日本全体の社員の意識の変化でそれらが改善されていく様子が描かれている。同時に、スマホが普及した現在、利用者の情報への要求もますます高いものになってきていることをしっかり認識してる様子もある。

とはいえ、それらの改善は、大々的に広報されているわけではない。私は、JR東日本はATOSについて、もっと一般に知らせるべきだと思う。先日の台風19号でのJR西日本の運休は、その決断を「まあ、仕方がないよね」と受け止める人が多かったと思うが、JR東日本も、やむを得ぬ事情でダイヤ乱れた場合や運転整理をした時に、利用者に「まあ、仕方がないよね」と納得してもらう必要がある。そのためには利用者に、ここ10年で運行管理がどれだけ改善されてきたか、あるいは普段、どれだけ指令の恩恵を受けているのかを知ってもらえばよい。

これからもJR東日本の運行管理はさらに改善されていくだろうが、まだまだJR東日本が気づくべきことはたくさんあるだろう。できること、できないことはあろうが…という前置きがなされないくらいに社員の意識が変わって快適な鉄道になることを期待する。

大変読みやすい本だったが、執筆の大変さは察するに余りある。このブログ末尾に川辺さんの他の著書の感想へのリンクを張ったが、本書のようなクオリティで、従来の「車両」「歴史」以外の切り口で鉄道に迫る川辺さんの次回作が何になるのか。こちらも期待したい。


最後に。本書は取材を元に構成してあるので、すべては聞いた話になる。だからだろう、「~だそうだ」「~だという」と結ばれた文が非常に多い。これはすべてトルしていいと思う。取材対象者が話したことは「事実」として断定していい。もしかしたらJR東日本が事実チェックをして、ソースがないものはすべて伝聞形式にせよと言われたのかもしれないが、読んでいて気になる部分だった。

(*)本書では触れていないが、私は、たびたび国鉄・JRの職員の意識が変わった、とくに世代交代して変わってきた、と書かれているあたりから感じ取った。取材協力がある本の場合は「そこに書かれていないこと」をさぐりながら読むものだ。

* * *

余談。2014年1月3日に有楽町駅付近で火災が起き、東海道本線の列車が品川折り返しになった。その際、本来ならば東京駅で商品を積み込む車販の人たちは相当な苦労をしたエピソードが書いてある。10月13日、私は磐越西線の「DLばんえつ物語体験号」に乗った。行きは新潟→馬下、帰りは馬下→新津。売店の人たちは、新津から新潟まで変える手段がない。驚いたのだが、通常の上り電車(115系)に荷物ごと乗り込んできたのだ(便乗扱いだろう)。また、私自身が東海道新幹線で車販のバイトをしていたときにダイヤが乱れると、新大阪まで行かずに京都で折り返したりもしていた。そんな苦労を思い出した。


●関連項目
『鉄道をつくる人たち』(川辺謙一著/交通新聞社)
『鉄道を科学する 日々の運行を静かに支える技術』(川辺謙一著)
『図解・首都高速の科学』(川辺謙一著/講談社ブルーバックス)
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