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(画像は交通新聞社の公式サイトから)

交通新聞社新書にしては珍しい、既刊の再販ものである。本は出た瞬間は書店でも平積みになるし話題にもなるから売れ行きがいいが、数ヶ月もすると1冊を棚差しにして残りが返品され、もはやだれの目にもとまらなくなることが多く、でも優れたコンテンツはいつの時代でもやはりすぐれているわけで。既刊の優れた本を二次利用的に安価に提供する新書や文庫はそうしたシステムの上に成り立っているものもある。とはいえこの手法をとったものは交通新聞社新書では初めてではないか。

本書の原著は昭和61年に刊行されたものだ。まだ営業路線として開通する前のものだ。

* * *

本書の内容はとてもリアルで興味深いのだが、商品として大きな問題があると感じる。交通新聞社新書にありがちなのだが、本書も「編集」がなされていない。原本が「素人の手作りの本」(P317)だから、ということではない。本書の意義、目的、性格を、版元は、読者にきちんと知らせるべきであると私は考える。それはなにか。

まず、本書は「鉄建公団の本である」ということ。そうだとわかるようには書いていない。青函トンネルについて本書しか読まない読者は、直轄部隊が先進導坑を掘り、作業坑と本坑はゼネコンが掘ったということをほとんど知らぬまま読み終えるだろう。

本書が描くのは、国鉄、そして鉄建公団の直轄部隊が掘った先進導坑および技術開発である。だから、四度起こった出水事故も直轄部隊が大きく関わったものだけが採り上げられているし、48ページをも割いて描写される51-5出水は作業坑で起きたのに、そこを統括しているJVについてはほとんど触れられず、すべて国鉄が、公団が、直轄部隊がどうしたか、という描写しかない。そして本書は先進導坑の開通の描写で終わる。刊行時点では本坑も貫通しているというのに、だ。

次いで、本書は素人文芸であって、プロによるドキュメントや小説ではないということ。なにしろ登場人物が多い。多すぎる。ドキュメントや小説であれば、登場人物は絞られ、たとえばある一人の人物の視点を使って描かれたりする。それに対して本書に登場する人名は夥しい数に上り、しかも一度しか出てこない名前も多い。なにしろ約40年間もかかったのである。同じ名前の人の役職名が代わり、あるいは同じ役職名でも人名が入れ替わっていく。また、なぜか時系列が前後するため、そこでは役職の後退まで起こる。こうしたことは再編集する際に整理してあるとなおよかった。

そして、本書の登場人物の力関係がまったくわからないこと。組織図、組織の相関図が欲しい。40万人を抱える巨大な役所・国鉄、鉄建公団、民間企業。登場人物それぞれに肩書きが書いてあるのだが、上下関係すらわからない。下記の役職、どれが本省でどれが公団でどれが民間か、あるいはどれが本省でどれが現場機関か、読者はわかるだろうか?

・青函建設局長
・函館建設局長
・吉岡建設所長
・吉岡共同企業体所長
・機械課長
・電気課長
・工事第1副所長
・国鉄北海道総局長

なにしろ40年近くかかった工事である。工事中に組織も変化するだろう。そういうものをわかりやすく図表で説明するのが編集ではないのか。原本は元々内部向けに書かれたものだろうから、こういう肩書きだけでいいのだが、本書は一般読者に売るものである。再販ものとはいえ、もう少し整理すべきなのではないか。

* * *

上述のように問題点はいくつかある。また、本書に書かれた内容は、文章こそいささかクセがあり、わかりづらい部分はある。しかし、当事者ならではの声を多数収録しているのでとてもリアリティがある。登場人物の氏名をすべて塗りつぶしても内容は通じるので、改めて読み、政策としての交通路の確保ということを考えるよすがになればと思う。


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