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2019年2月7日(木)から10(日)まで、慶應SFC・石川初研究室の展示会「庭仕事」が、渋谷のギャラリールデコで開催されている。SFCの加藤研、早稲田の佐藤研との合同展示だ。


入口ではGPSログが出迎えてくれる。GPSログは、『ランドスケール・ブック』(石川初著/LIXIL出版)の表紙になっているほど石川さんと密な関係のものだが、今回の展示はGPSログは使われてはいるものの、行動や地形にべったりというものはない。おもしろい。

もっとも大きなスペースでの展示は、3年目の神山プロジェクト。徳島県の神山町でのフィールドワークの積み重ねの結果のいろいろな発見。実際に研究室の学生たちから解説を受ける。よどみなく、解釈しきって自分の言葉として話す学生たちは、本当にすごいと思う。

ここに神山の地図をおいておく。青が神山町の範囲、赤が国道。国道といっても、神山町に出入りする道はすべて「酷道」である。(カシミール3D+スーパー地形セット+地理院地図で作成、加工)
 


「道の集落『名(みょう)』の空間構造と景観」。傾斜地の集落には、車道と歩経路がある。それらと敷地・建物の関係を分析している。いくつもの集落を歩き、「名」に出会った。


こちらは神山の市街地で、住人が夕方になるといろいろな目的で歩き始める。そのルートを集めたところ、外部からは道だとは認識できないところが道となっていたり、そういうところを歩くとアップダウンがなくて非常に歩きやすかったりということがあった。それを可視化すると、既存の地図に記載された道とはまったく異なるものができあがった。地域の人にしかわからない小径は無数にある。それらを丹念に拾って気づいたときの喜びというか外部への伝わらなさというか、そういうことまで感じられる。


FAB-Gについては前年の展示に詳しかったし、過去の石川さんのトークや後述する『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い』にも詳しいので割愛する。

学生個々の展示は、人の生活・思考を別のスケールで捉えたものが多かった。ありふれた言い方では「再定義」「言語化」とも言えるのかもしれないが、「スケール」という概念をベースに解説することで、展示の統一性も出るし、より思考も整理されていくようだ。
 
この展示が10年、20年と続けば、各年で発表されるテーマの傾向と変遷を社会や個人と結びつけて俯瞰して見る人が現れるだろうし、そのころに集積された神山における視点を見たい。


石川さんの活動のごく一部、主として地図・地形・スケールの面を10年くらい拝見しているけれど、昨夏に刊行された『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い』を見て、個々の活動のすべてをスケールで説明しているということに圧倒された。そして、その「スケール」という道具についての説明は、同じ文脈を共有しない人にも、すごくわかりやすく書かれている。

本書には、膨大な、視点を見いだした例とそこからの考察が詰まっていて、その対象は個人の手仕事からドボクにまで及んでいる。一冊の中で整然と並んだそれらを読み終えるとき、読者は自然に副題にある「歩くこと、見つけること、育てること」という行為を、今回の展示のようなものを見るときに対象から読み取ることができるようになるだろう。

本書を読んでおくと、この展示がすべて一つの思考の元に存在していることがよくわかる。自分が学生のときに『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い』や石川研があったとしても、自分にはとてもそれらを理解する能力などなかった。優秀な学生たちと一緒に歩いたらさぞ楽しいだろうと思う。そんな機会があったらぜひ参加してみたい。

* * *

まったく関係ないが、神山町の東の外れ、佐那河内村との界には「府能トンネル」の旧道「府能隧道」がある。平成29年の推奨土木遺産に認定されている。以前、ブログに書いていたので再掲する。

・府能隧道(国道438号)




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