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この本をご存じの方は少ないのではなかろうか。昭和45年に鉄道図書館公開から刊行された、檀上完爾『赤い腕章』と同じシリーズだ。著者は西本三郎、明治40年(1887年)余市生まれ、大正10年(1921年)国鉄に就職し、昭和36年(1961年)国鉄退職。大正13年(1924年)から昭和33年(1958年)までの間、倶知安、中湧別、興部、岩見沢、月形の保線区を振り出しに、道内の保線に携わる。そんな、当時のエピソードを交えながら、保線一般の話を語る。別名「藻岩山麓」という名前での著書もあるが、それはまたの機会に。

やはり、読んで面白いのは「当時の話」だ。プロローグは、石北本線がまだ開通していない頃に旭川から名寄、興部と通って小向に向かう。紋別から南に二つ目の駅だ。そこに単身、列車で赴任する。当時の保線という職業、そして職業人たちの様子が細かに書かれている。それを転載はしない、ぜひ入手して読んで欲しい。


さて、メインの内容はというと、書名のとおり、保線の基本である。
第1章 プロローグ
第2章 線路の話
第3章 名人(ビーター)保線から近代(マルタイ)保線へ(下写真)
第4章 天災・地災・人災
第5章 トンネル・鉄橋・踏切道
第6章 雪や寒さと闘う
第7章 競合脱線
第8章 速度と保線
第9章 都市保線の憂うつと新幹線保守
第10章 保線よもやま話


現代でも通用する、極めてまじめで、簡潔な内容である。

興味深いのは、書かれた時代性である。「第6章 雪や寒さと闘う」「第7章 競合脱線」はまさにそれで、第6章ではED16(!)が押すラッセルの写真もあれば、『北の保線』(太田幸夫)にも通じる部分もあり、そしてDD53などの機械除雪の話になる。第7章は狩勝実験線が成果を上げてきたころであり、「競合脱線」というものが解明されつつあった。それまでに多発した脱線の原因は保線に帰され、著者を含む関係者に重大な処分…ある例では線路工手長が馘首…がなされてきたが、(おそらく原因は貨車の側にあるのに)保線の個人が責任を負わされる理不尽さを嘆いている。

下記のような「黄害」についての記述、これも時代性が強く、現代では「昔話」になってしまったが、貴重な記録であろう。




* * *

二点、重要な観点を紹介したい。本書がすごいと思った点である。一つ目は、第10章保線よもやま話のなかの「<保線の神様とは--?>」という一節。NHKのテレビ小説『旅路』に「線路を自分の手足のように知悉している保線の神様」という人物が出てくる。これに対して「こういうタイプの人物は、現実にいたことはいた。が、保線の神様とは、一体どういう意味なのか、私にははっきりしない(中略)線路状態を熟知しているだけの老保線員を神様とは、このデンでゆけば、全国六万五千の保線関係者の半数以上は、保線の神様であると私は思う。神様などという表現は、そう気易く使ってもらいたくない。」

これは、マスメディアがよく使う「新幹線の安全神話が崩壊した」につながらないだろうか。当事者たちはだれも自分を神になどなぞらえていない。無関係の者が、勝手に「神」を作り出し、そこに酔い痴れてしまう。いま、メディアが「安全神話」という言葉を使うたびにSNSにはそのメディアの稚拙さを指摘する声が沸騰するが、46年前に、別の場面で、これに違和感を持った保線屋がいたのだ。これは、すごいことだと思う。これまた逆に「国鉄神話」を作りかねないが、そうした慧眼の持ち主が、一保線屋にいたのだ。

もう一つは、第8章速度と保線の「最高速度とスピード記録の違い」の一節。各国の記録について「どうか、競馬における馬と騎手のみに拍手を送ることのないようにお願いしたい」という記述。

この二点こそ、現在にも通じる内容といえよう。

* * *

関係あるというかないというか、本書の著者のお孫さん・西本有氏が、別府で、竹のカゴを編む有製咲処(タモツセイサクショ)を主宰している。西本氏が作った竹細工は「ななつ星in九州」の車内調度品に採用されている。北と南で、祖父と孫で、鉄道に関わっておられる不思議なご縁。私も竹かごバッグ(bamluxe)を購入した。




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