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中央公論新社から刊行された本書は、地形で読み解く東海道本線の建設史だ。近年、急速に詳細なデータが無料で使用できるように整備されてきた標高データや地形図を使い、31見開きもの「凸凹地図」を掲載している(以下、標高を立体的に表現している地図をこう書く)。本文含めてオールカラーで160ページ、定価1400円(+税)というのは、本の制作・製造コストを知っている者からすれば、驚異的な安さだ。2000円を超えてもおかしくないはずだ。

誌面は、著者のツイートをリンクしたい。




本書が優れている点はいくつもあるが、地図に関して言えば、地形図やネット地図には載っていない、でも本文と関係している地名などが網羅されていることだろう。本文を読みつつ凸凹地図を頻繁に参照するのだが、一つとして漏れているものがない。凸凹地図では表現しきれない広範囲の地図は、別に概念図が用意される。そして、地名には読みがなが振ってある。

こうしたことが丁寧になされている本は、実は珍しい。特に鉄道書では、総じて地図がひどい。廃線跡探訪の記事でさえ、なんの説明もなく地図にない地名が出てくるし、地図内にあるべき地名すらなかったりする。本書の地図原稿の作成は多大な手間がかかっていることは、同じようなことを好んで、あるいは仕事として行う私には十分に実感を伴ってわかるが、しかし、著者は、その作業をとても楽しくこなしたに違いないことも実感する。

また、本書は「紙」に「地図」が印刷されていることが、大きな特長であり、優れた点だ。いま、地図はPCのブラウザで見るのが当たり前になっている。そういうインターフェースでは、ついどんどんスクロールしたりズームアップ・ダウンさせててしまう。地域を概観したり、周辺の情報を読み取ることにつながりにくい。紙の地図はスケールが固定され、余計な情報も多いゆえに、自分の目が近づくこと、離れることにより、さまざまなものが見えてくる。こういう本を作るとき、コスト等から「地図だけ分離してPCやスマホで閲覧できるようにしてはどうか」と考えてしまうが、いや、それではだめだ。紙に印刷されて中にあるべきだ。そして、本書は絶妙なスケールで、それがなされている。(「新聞には余計な記事が多いからこそ読む価値がある」という、一見本末転倒のような論があるが、私は的外れではないと思う)

個人的には、東海道本線沿線はあまりなじみがないエリアではあるが、それでも、改めて本書で建設史と地域史を読むと、そこに行きたくなってくる。とりわけ、つい通過してしまう浜松から大垣あたりに。

恥ずかしげもなく申し上げれば、私はこういう本を作りたかった。しかし、いい切り口が思い浮かばなかった。10年以上前に『カシミール3Dで見る・自分で描く 空から眺める鉄道ルート』(杉本智彦・松本典久著)を作り、その後、竹内さんによる、パートワークへの連載をまとめた本は出ていたが、「東海道本線」か。なるほど。それがあったか、と思った。本書を世に送り出した中央公論新社に敬意を表しつつ、続編を大いに期待したい。次は、東北本線か、信越本線か。自分で勝手に続編を書きたいくらいの気持ちだ。(こうした地図をとある場所にアップする計画があるが、それは本書刊行前から進んでいるものなので、パクリじゃないよ、といまここで念のために添えておきたい)

* * *

本書で「古い地図が見てみたい」と思う人もいるだろう。幸い、一部の地域は「今昔マップ」に収録されている。ぜひ見比べてみて欲しい。
http://ktgis.net/kjmapw/index.html


カシミール3Dの「タイルマップ機能」を使えば、この今昔マップによる古い地形図を凸凹地図にして楽しむこともできる。


私のブログ内でも、地形と鉄道などへの考察がいくつもあるので、ぜひご覧いただきたい。
地図・航空写真・分水嶺 ( 85 )



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