今日は9月1日。ちょうど89年前、1923年(大正12年)に起きた関東大震災に関する労作である。ページを繰るのがもどかしくなる良書。「○○と鉄道」というタイトルの本がいくつかあり、いくつか読んだが、その多くがなかなか本題にとらわれて迷走する内容が多い中で、本書は的確に関東大震災と鉄道に関するいままでない(わけではないがメジャーだったり常識になったりはしていない)切り口で記述している。帯にはこうある。「89年前、激震と猛火に立ち向かった鉄道員たちの機転と勇気」。
関東大震災については一般的には被害だけが採り上げられることが多い。記録とはそういうものであろう。しかし、実際に大変なのは「その後」であり、完全復旧までの道のりである。そうしたことを採り上げたものとしては『人物国鉄百年』(青木槐三著)や『国鉄を企業にした男 片岡謌郎伝』(高坂盛彦著)がある。とくに前者は本書と同じ「関東大震災と鉄道」という一節がある。これらを読んでいたので、ある程度の流れやエピソードは把握して本書に取り掛かったのだが、著者は『日本鉄道旅行地図帳』に関わっているだけに、評伝と記録をバランスよく記載している。 この手の本といえば、資料や既刊本からあらすじをまとめ直すだけでおしまい、ということも多い。しかし、本書は実際に丹念な取材をした上で書かれている。巻末に取材協力者の名前があることからわかるように、ルポライターのように(と私は感じる)地道な取材をしたと聞いている。そうした裏付けが厚みとなって出ている。また、ドキュメントの要素を含んだ本にありがちな、登場人物に会話をさせたりするようなことがほとんどない。リアリティを出すための会話調の部分は当時の新聞を引用するなどして、うまく、創作にならないように留意しているようだ。 私がもっともおもしろく読み進んだのは、第6章(最終章)「避難列車」所収の「救援に駆けつけた関釜連絡線」だ。その「勝手な行動」は感動的である。第6章は、全般的に東日本大震災後に三陸鉄道が復興の象徴として無料で運転を開始したというエピソードに重なるものである。そういえば、そのことを描いた漫画『さんてつ』も新潮社だ。
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本書には電子版が用意されている。いまのところアップル製品のみ対応しているようだ。うまくダウンロードできなかったので問い合わせ中なのだが、地図が表示され、そこから各ページに飛べる。各ページには、多数の写真といくつかの動画が埋め込まれている。内容は本書に関連したものではあるが、別物である。 写真を見るにつけ、被害のひどさを実感する。現在は地震対策が進んでいるため、関東大震災と同じことが起こってもここまで破壊されることはないだろうし、各地を襲い、被害者を倍増させた火災もいまほど起きないだろうとは思うが、果たして…? ほぼ同時に、災害と鉄道を扱う新書が刊行され、それも読んだが、各社が講じている対策に「十分ではない」と難癖をつけているだけにしか見えなかった。そういうあげつらい方なら、災害対策にどれだけ投資しても「まだだ、まだ不十分だ」と言い続けることができるようなあげつらい方。内容も、土木や災害の専門家ではない人が調べて一所懸命書きましたという印象を含めて水増し感がとても大きい。この著者はこの本でもブログでも他者や同業者に対する嫌みを書いており、ちょっと見方が変わった。読まぬが吉。
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本書の主旨とはまったく異なるのだが、おもしろい記述がある。のちの御殿場線の第二酒匂川橋梁の下り線で仕様されていた100フィート英国系ポニーワーレントラス2連が、タイのクワイ川橋梁に転用されたというのだ。まとめは御殿場線の橋梁群(1)3つの酒匂川橋梁概説を参照されたい。 本書のような、鉄道専業のライターではない著者が執筆した、鉄道に対する新しい視点を与えるものが、今後も続々と刊行されることを期待する。もちろん、鉄道ライター諸氏には、愛好者のための本を存分に書き続けてほしい。 PR |
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