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PC112540.JPG鉄ヲタではなく歴史ミリヲタの同僚から、この本がついに文庫化されたと聞いて、買った。仕事のための知識習得という面もある。いま、脳内でもわもわしている企画が結実するといいのだが。所収は講談社学術文庫。すばらしい。しかし、定価は文庫らしくなく、272ページで920円+税である。部数は推して知るべし。

いままで、原田勝正氏の文章は、編者としての文章しか読んだことがなかったので、本書を読み始めて驚いた。小説のようではないか。冒頭、いきなり明治5年9月12日(当時;太陰暦)の情景の描写から始まる。そう、この本はドキュメントの手法も取りつつ、事実を重ねて著述していくのだ。

内容は、なにからなにまですばらしい。さすが『日本国有鉄道百年史』の執筆者。

しかし!残念な点が多々ある。これは著者の責任ではなく、版元の責任といえるものなのだが。本書が最初に刊行されたのは1983年(昭和58年)。まだ国鉄が存在していた時代である。文庫化は2010年(平成22年)。その間、27年が経過している。なのに! 記述が当時のままで、注釈が一切ない! 刊行当時の事実が書いてあるので、今もその通りだという誤解を生みかねない。これは、版元の責任で注釈を入れるべきだと考える。

もうひとつ残念な点は、本書が日露戦争後で終わってしまっていることである!



内容で興味深かったのは、日清戦争後に鉄道投資熱があったというくだりだ。著者に依れば、熱に浮かれたのは1896年(明治29年)から1897年(明治30年)。1896年に設立申請のあった鉄道会社の総数は推定450以上。1886年から1890年までの5年間での起業は39社であるから、それと比べると数字のすごさがわかろう。出願の大部分は計画が杜撰すぎたり実現性が低かったりしており、ほぼすべてが却下された。江ノ島周辺では7社がほぼ同じルートで出願し、すべて同日に却下されている。申請の実例は、『日本の廃道』49号所収の「大峰電気鉄道」、同53号「山上軽便鉄道」などに見て取れる(これらは日露戦争後のものであり、あくまで計画性の杜撰さの例である)。

アメリカの鉄道投資ブームから約50年経って日本に現れた鉄道投機熱。アメリカの投機熱は、銀行が(当時は銀行が証券も扱っており、分離する規制はなかった…はず)西部開拓への夢を煽り文句に人を騙し続けたようなもので、また、実際の事業としては、競合路線を敷設し、競合したあとでその鉄道をライバル会社に高値で売りつけるなどということもしている。日本も、あとで国鉄に買い取らせればいい、という近い投機もあったようだ。ただし、日本では、鉄道を敷設しようとする地元の人たちによる費用面や労働面での奉仕もこれまた多かっただろう。その点ではアメリカと事情は異なる。


鉄道史とは、単なる路線ごとの年表の集合体ではない。さまざまな社会、経済、政治情勢を絡めて理解しなければならない。その入門書的な存在である。交通史というフックにひっかかる方には、ぜひご一読をおすすめしたい。

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