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20120321_001.JPG本は通勤の電車内で読む。そのため、電車内では読みづらい鉄道雑誌以外はほとんど家では読まないのだが、この本は家で読み尽くしてしまった。

一言で言うと、予想とまったく異なる内容である。いや、タイトルに偽りはない。私が抱いていた白井昭氏や大井川鉄道のイメージが誤っていた、というだけの話である。おそらく、多くの読者がそう感じるのではないだろうか。

大井川鉄道といえば、子どもの頃から「C11227が運転されている私鉄」として知っていた。そこに、古い名鉄や近鉄の車両が走っていることも知っていた。私にとっては、ただそれだけの存在だった。そのため、私が大井川鉄道初めて乗ったのは比較的最近の2001年頃だ。トラストトレインのことや、C5644、C11190のことを知ってはいても、ただそれだけの存在だった。

20120321_003.JPGところが、大井川鉄道は、白井昭は、そんな存在なんかではなかった。私は過去の誤った認識をお詫びしたいくらいだ。本書の背に、こうある。

「地域再生の鍵がここにある。」

かなり控えめなアピールであるが、このキャッチは帯の表1側に大きくあったほうがいいのではないかと思うほどに、本書の内容はこれに即している。

いま、地域の鉄道について真剣に考えてる人やグループはたくさんある。地元が主体となって行動しているところ、その鉄道のファンが主体となって鉄道会社とともに増収策を考えているところ、「公募社長」という仕組みで従来の枠では考えられなかった取組をしているところ。うまく歯車が噛み合ってないところもあるにせよ、とどのつまりは、関係する誰もが「鉄道をきっかけに、地域の衰退を食い止めたい。あわよくば、鉄道が地域の象徴のように愛され、利用され、鉄道の収益も向上すればよい」ということを願っているはずだ。

「地域再生の鍵」とは何か。本書に解答が書いてあるわけではない。白井昭の思想と、40年以上かけて実践してきたことを系統立てて書いてあるだけだ。しかし、地域再生のリーダーたちが本書を読めば、自らや自らの地域をそれと比較し、なにができるか、なにが欠けているか、改めて見直すことができるのではないだろうか。


20120321_004.JPG前半は、名鉄時代のエピソードが凝縮されている。のちの社長・土川元夫とともに、そういう時代だったのだろう。いままでほとんど意識したことがない名鉄という会社にとても興味が湧いてきた。いまの企業風土がどうかはわからないが、今後は注目していこうと思う。

その土川のエピソードが、実に興味深い。時は昭和35年(1960年)、いまから52年前である。土川と、友人の建築家・谷口吉郎の会話である。

「文明開化を担った明治時代の建物が、いま取り壊しの憂き目に遭っている。六〇年代のいま、新しいもの、モダンなものが無条件にもてはやされ、明治のものは顧みられることがない。何とかならないだろうか。」(本書より転載)

この意識が明治村やモンキーパークを生むのだが、これは、その30年後の会話としても十分成り立つ。30年間(なのかもっと前後に長いのか)、世間の意識はこうだったのだ。しかし、52年後の今ではどうだろうか。私のブログの主要なテーマのひとつである「廃道」では、まだ成り立つ言い分かもしれない。しかし、成り立たなくなる場合も確実にでてきた。さまざまな「廃」に目を向けた人々は「それは廃れさせていいものなのだろうか?」という自問自答を始めた。白井が意識せず作り上げてきた価値観と同じものを、急速に作り上げつつあるのだ。


20120321_002.JPG帯の下部に「鉄道・ノンフィクション」と書いてある。書店に対するアピールだ。そういう観点で鉄道ファンが読んでも十分おもしろいが、本書はこれは経済・経営書でもあると思う。「会社とはこうあるべき」といった指針がいかに大切かを繰り返し説いている。書店は、そういう売り方をするといいと思う。


最後にもう一度。地方鉄道の活性化を考えている人は本書を読み、考えよ。白井と対等に会話できるくらいに思考を進め、かつ周辺にもそれを理解させることができれば、きっと地方鉄道は回り出すし、公募社長にもなれるに違いない。


注)著者名「髙瀬文人」氏はハシゴ高。「大井川鉄道」は「~鐵道」が正式表記。検索性を高めるために、それぞれ標準的な字体とした。
 
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