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待望の本が刊行された。著者は、鉄道ファンには『RailMagazine』誌上で「感動の所在地」(全3巻)という昭和40年代の蒸気機関車のあった光景を描写した連載と、それに続く「SL甲組の肖像」(1~7巻、以下続刊)という機関士の証言を集めてリアルな運転の現場を再現した連載で知られる。どちらも、それまでにはなかった内容で、美しく効果的にレイアウトされたモノクロ写真とあいまって、素晴らしい連載となっている。

「SL甲組の肖像」は機関区ごとに章立てされており、証言する人はほぼ昭和十年代に国鉄に就職、直後に戦中戦後の鉄道輸送を経験し、昭和五十年代まで働いていた人たちだ。乱暴にくくればほぼ世代は共通する。『SL機関士の太平洋戦争』は、彼ら機関士の証言を、機関区という枠を取り払って時代意識やテーマでまとめたものだ。「SL甲組の肖像」の取材では、連載に収まりきれない証言、記録しておきたい証言がものすごい量になっていることは想像に難くない。『15歳の機関助士』(川端新二/交通新聞社)もそうだが、いまは想像することも難しい、戦争の時代。しかし、2013年から考えると、70年前の話しである。

著者としては「間に合った」というのが実感だろうと思う。取材は2000年代前半からとしても、なにしろ当時ですら80歳を越える方々も多かったはずだ。あまりに過酷な労働環境ゆえ、機関士の平均寿命は65歳くらいではなかったか。それでも、当時の記憶を今に伝える…いや、その人の中だけに抱えていて家族にすら共有されていない記憶を公にすることがいかに大切なことか、この本で認識させられる。

本書のタイトルは「太平洋戦争」であって「日中戦争」でも「第二次世界大戦」ではない。読むまでは不思議に思っていたのだが、読めば、なぜこのタイトルになったかが実感できよう。

* * *

こうした記録集は、もっともっと刊行されてほしい。鉄道趣味誌も、発表の場を与えて欲しい。対象も機関士だけではなく、時代も広げたものを、読んでみたい。集まれば、昭和20年代の、30年代の、40年代の国鉄職場の雰囲気と、時代も感じることができる。鉄道趣味対象の異様な偏りも、少しは緩和できる。ならば自分でやれよ、と言われそうだ。すみません。

本書と同じにおいを感じた本に、『関東大震災と鉄道』(内田宗治著/新潮社)がある。こちらは記録と証言を結びつけた本。合わせてぜひ。




* * *

そういう点では、イカロス出版の『「証言」日本国有鉄道』は貴重だ。『甲組』の3回目くらいの孫コピーに感じる質ではあるのだけれど、取材対象が蒸気機関車以外の運転職という、いままで鉄道趣味誌がないがしろにしていた部 分に焦点を当てているというその一点で、貴重である。登場するのは、望んで電機や電車の機関士・運転士になった人たち、踏切警手、操車掛、車掌だ。それ も、比較的若い、60代から70代の人たちだ。



「孫コピー」というのは、とにかく『甲組』の表面だけ真似しているのである。本人の言葉をキャッチとして使うあたり、とくに。インタビュアーの質問も丁寧語と敬語が混ざり、ぐちゃぐちゃ。「ありましたか」と「ございましたか」があったり。また、誤字が恐ろしいレベル。入稿前にプリントして読むことすらしていないものを原稿校了しているのではないか。非常に残念だ。

本の作りとしては、悪い。しかし、それは証言の質とは関係ない。内容は、とにかく証言者本人の印象、別の言い方をすれば「主観的な事実」だけが書かれていることは貴重である。

本筋とは関係ない印象として、あふれてくるのは昭和40年代、50年代の国鉄の置かれた環境である。「現代の目で見ると」当時の国鉄というのはありえ ないほどに恵まれた職場環境なのだが、証言者たちはそれをまったく認識していないのがすごい。現代の目で見ると、なぜその作業に正社員が必要なのだろう、 というように感じてしまうような証言がたくさんある。それも、歴史である。



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