『鉄道の世界史』(小池滋/青木栄一/和久田康雄編、悠書館)について。書影は悠書館サイトより引用。本書と同体裁というか悠書館曰く「三部作」のひとつは、先に紹介した『日本の鉄道をつくった人たち』だ。
本書は752ページという大著。世界の鉄道をあまねく紹介するが、それゆえにあくまで概要にとどまる『世界の鉄道』(ぎょうせい)ではとても把握しきれない、各国の、もっと深い「鉄道がその国の歴史に果たした役割」を22地域・国に分けて開設する本。とはいえ、まだアメリカ合衆国、しか見ていない。執筆は西藤真一氏。 30ページしか割り当てられていないため、歴史としては180年、そして世界一の路線延長を誇るアメリカの鉄道がアメリカ国内史/世界史に与えた影響を網羅するのは土台無理な話だ。しかし、しかし。記述の大部分が、現在につながる部分に割かれていること、とりわけ旅客輸送にも記述を費やしていることに、個人的には残念な思いがした。州際通商委員会の設立から話が起こされている点は大変評価できるが、なぜそうなってしまったのかの記述がもっとほしい。 すべての根っ子はこれなのだ。 アメリカの鉄道は、すべて民間により、やりたい放題に建設された。 ここからさまざまな物語が派生するのだ。私が「これも盛り込んで欲しかった」という点を羅列する。絶対に外せない観点は経済、とりわけ株式市場との関わりである。 ・1830年頃に、イギリスがアメリカを見ていた目。アメリカというのは、ヨーロッパ人にとっては海のものとも山のものともつかない存在だった。そんな国が、イギリスはじめヨーロッパで資金調達をし、やがて世界の金融の中心がシティ(ロンドン)からニューヨークに移った。 ・19世紀中盤、アメリカは自国の東海岸と西海岸を結ぶ陸上ルートを持たず、移動するには船で現在のパナマ付近まで行き、地峡を陸路で越え、また船に乗っていた。 ・ホームステッド法により西部開拓につながった。資金調達にしろ沿線住民獲得にしろ、詐欺みたいなことも多々あった。 ・1800年代後半、株式の主要銘柄の大半は鉄道株だった。しかも1900年代前半までに何度も倒産・再建を繰り返している。 #奇しくもソフトバンク孫正義氏の「新30年ビジョン」で、こんな映像が流れた。画像転載元:kokumai.jp 全世界の株式の時価総額ベスト10(といいつつ9位までしか表示されていない)すべてがアメリカの鉄道に関係している。上位4社がアメリカの鉄道会社。 1位のNWは正確にはシカゴ・アンド・ノースウェスタン鉄道で、1995年に表では3位のUPと合併。 2位のPRRはアメリカの鉄道の牽引車を自認していた鉄道で、のちNYCと合併してペン・セントラル、のち解体されてコンレールに、コンレールも解体されてノーフォーク・サザン鉄道とCSXトランスポーテーションに。 3位のUPはいまもある、アメリカにおける最大の鉄道会社。 4位のサザン・パシフィック鉄道は、1996年までにUPに買収されている。 5位のUSスチールは、8位のモルガンが「これからは鉄の時代だ」として鉄鋼会社28社を統合して作った会社。鉄の供給先は、鉄道と船舶、軍事である。 6位のスタンダードオイルと7位のテネシー石炭は、ともに自社製品を運ぶために鉄道を持っていた。 8位のモルガンは上述のとおり鉄道の資金調達、統合と経営で財産をなした人物。いやちょっとマテ、この時期のJ.P.モルガン&Co.は従業員30人くらいの会員制金貸し業みたいなもんで、株式公開などしていなかったと思うが…どうなんだろう? 資産総額も、JPM没時にカーネギーが「これしか遺産がないのか!」みたいなことを言ったくらい、その手の人種の中では清貧(とはいえ信じられないくらい莫大)だったらしいので、それと取り違えたということもないだろうし…。 9位のシティ・バンクも似たようなもの。1900年の前後50年間くらいの間、銀行(の証券部門)と鉄道は絶対に切れない仲だった。 ・日本で現代話題となる、株主を大切にする姿勢は1800年代後半のアメリカではすでに常識。配当するために設備投資をせず、事故が多発するというありさま。 ・鉄道の敵対的買収はよくあった。それがもとで恐慌を何度も招いた。 ・鉄道株で億万長者になった人物が多数いた。そのうちの一部は「ラバー・バロン」即ち「泥棒貴族」と呼ばれた。鉄道で金持ちになった人として有名なのは、エドワード・ヘンリー・ハリマン、ジョン・ピアポント・モルガン、バンスワリジャン(スヴェリンゲン)兄弟、その他たくさん。 ・地域の交通を独占し、交通弱者からカネを取り、大口顧客には割引をした。それがやがて州際通商法による規制に結びついた。 ・民間同士の競争は放置されていたので、いやがらせ目的で既存の鉄道の近くに並行して建設する鉄道もあった。建設したら、相手に買い取らせるのである。 ・土木や製鉄など、産業の発展を招いた。 ・南北戦争での使われ方。 もっともっとあるが、前述したように30ページでこれらを語れる訳もない。仕方がないのだが、関心を持ったら調べるきっかけとなるフックはちりばめておいてほしかった。 PR |
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