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読んでて違和感を感じた原因と、コンビニに売ってるワンコイン鉄道雑学本に対する違和感は同じだ。私は、こうした本には「新たな事実」を求めているのだが、えてして雑学本は感情的で、まったく考察のされていない批評が掲載され、推測でものごとが記述される

話は鉄道に限らない。私の勤め先で刊行された本で、きちんと書かれた新事実が多かった第一作が大好評だったのに、続編がひどい出来だったものもある。いま や大家となった人の過去の著作で、他人の判断を根拠なく批判しながら自分も大同小異の提案をしている本もある。後者は素人提案によくあるもので、鉄道で言 えば「○○鉄道が赤字なのは□□がいけない。△△をやるべきだ」の類。

この本で違和感を持つ部分を見てみると、多くは詭弁のガイドラインに抵触する。やはり、単なる事実誤認は許容し、根本的な考え方に疑問を持つ部分を挙げる。

(1)リニアへの誤解
(東海道新幹線開通により、1980年の在来線赤字額は東海道本線だけで1300億、対して廃止予定77路線の赤字総額は660億円である、と前置きした上で)
新幹線は既存の鉄道にとって脅威となったが、そんな新幹線にもそう遠くない将来、危機が訪れるともいわれている。
2027年に(略)中央リニア新幹線が開業したあかつきには、東海道新幹線の地位も急落する。そうなれば、嫌が応にもかつての東海道本線と同じ目に遭うことになるわけだが……。

JR東海は、その明確な企業姿勢からさまざまな感情的攻撃を受けているが、その会社がなぜ5兆円も出してリニアを建設するのか。そのほうが儲かるからだ、くらいにしか思っていないように見える。東京-大阪間を2時間30分かかる「のぞみ」でも高飛車な姿勢をとり続けていることを見れば、主たる目的は乗客増ではないのがわかるだろう。少し報道に注意していれば、現在の東海道新幹線の施設の老朽化問題が耳に入ってくると思うのだが()、あまりに幼い「批評」である。詭弁のガイドライン4「主観で決めつける」

(2)エコの取り違い

「鉄道はエネルギー効率がいいからエコ。一方、鉄道会社が保有する土地に希少種がいるのに開発を進めようとしている。」などという文脈。前者と後者は対立概念ではないので、「エネルギー効率がいい代わりに、希少種が減る」という展開にはならない。詭弁のガイドライン6「一見、関係のありそうな話を始める」。

(3)整備新幹線問題の認識不足
そもそも、それらの地域に新幹線需要があるのかどうかわからないし、なにより東京から北陸、東京から九州といった路線は航空機との競争もあるから、それほど利用は見込めず、新幹線の黒字さえ覚束ない。
JR九州の事業報告を読まずに、また首都圏-富山・金沢間の交通手段シェアを知らずに、そして国交省その他が推計している数値を知らずにこれだけのことを言えるのはすごいと思う。これも詭弁のガイドライン4「主観で決めつける」。

(4)過去の習俗の知識の欠如
(花電車について、1930年生まれの)原田氏は父親について「勤めを休んで子どもを花電車見物に連れていくことはないはずである」と書いている。氏の父親は家族サービスをあまりしなかったようだが(略)

1945年の8月(略)そんな状態にあっても鉄道会社は電車の運行を続けた。(略)太平洋戦争時、不要不急の旅は禁止されていたから鉄道利用者はそれほど多くはない。(略)おそらく、都会を走る列車はガラガラだったに違いない
国民の大多数は、玉音放送の意味をよく理解できていなかった。(略)その日、その日をどうやって暮らしていくかという悩みの方がよほど大事なことだった。
アンダーラインとした根拠を知りたい。時代的に、父親が子どもに向き始めたのは平成に入ってからと言ってもいいくらい最近のこと。現在の家族の感覚で65年前を判断しているが、そのような記述は他にもある。また、戦時中は旅客輸送などよりも物資輸送が恐ろしく逼迫していたのであって、旅客列車のことなど考察しても意味がない。後ろふたつは詭弁5「資料を示さず持論が支持されていると思わせる」

(5)経営主体を混同する

国鉄時代の施策も「JRが」という主語で書かれている。ありえない。これは看過できない記述。




私がこの手の本にあたったとき、いつもなら途中で読むのを放棄する。「~と言われている」「~とされている」みたいな読むに耐えない記述も多い。事実ならば「~だ」でいいのだ。もしここで私が
事実ならば『~だ』でいいとされる
などと書いていたらどうだろう? 読者は「え? だれの言葉?」と戸惑うことだろう。


どうも、、「担当編集者」が不在のように見える。著者が、多少ツッコミどころのある原稿を上げてくるのはよくあることだ。それを確認し、正すのが担当編集者の役割で、もし、著者が書いた原稿をほぼそのまま本にするのであれば、編集者などいらない。方向性を読者の興味とマッチングさせ、内容に著者と共同で責任を持つ。この本には、残念ながらそれがないように見える。編集者は校正者ではない。

そう言いながら、今回はすべて読んだ。どこかに新事実があるかもしれないからだ。そしてそれはあった。それだけに、上記のようないい加減な記述が惜しい。
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