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PC240058.JPGアメリカの繁栄を築いたのは、土木インフラである。それを実現したのは、目先にとらわれず、遠大な構想を持って未来を見据えて実現に取り組んだ、偉大なる牽引役たちで、その多くは大統領である。しかし、いま、老朽化によってそれらが危機に瀕している。いまこそそれらを大々的に補修すべきであり、そのための投資と管理監督する、全米復興銀行を設立すべきだ…ということを主張する本だ。内容は、アメリカの「歴史的十大事業」の計画から実現、結果までを概説したもので、基本的に礼賛している。

帯にある、十大事業と、それを導いたリーダーたちを列記する。
・ルイジアナ買収(ジェファーソン)
・エリー運河(デウィット・クリントン)
・大陸横断鉄道(リンカーン、セオドア・ジュダ)
・ランドグラント・カレッジ(リンカーン、ジャスティン・モリル)
・ホームステッド(自営農地)法(ジョンソン)
・パナマ運河(セオドア・ルーズベルト)
・地方電化局(フランクリン・ルーズベルト、モーリス・クック)
・復興金融公社(フーヴァー、フランクリン・ルーズベルト)
・復員兵援護法(フランクリン・ルーズベルト、ウォレン・アサトン)
・州間高速道路システム(アイゼンハワー)

どの章も、礼賛、礼賛、礼賛、ネガティブな面、「だがしかし、それを補ってあまりある利がある」的な構成となっている。例えば他国の領土内に自国のための運河を建設したパナマ運河などというものは、アメリカ帝国主義の最たる例だと私は思うし、そうしたことも本文には書いてあるが、「ビッグスティック外交」=軍事力をちらつかせて相手国を脅し、不平等な条約を結ばせることについては、あまりにもアメリカの視点でしか書いていない。だから、各項目のネガティブな面は自分で礼賛と同じくらい調べれば、概要を把握するのには適当な本だ。幸い、ネガティブな面がなんであるかはわかりやすく載っている。


本書を読んで思うのは、次の二点。日本で言えば明治時代の志士のような、志を持ってものごとを成し遂げた人物がたくさんいること。もうひとつは、汚職や腐敗は日本の比ではないということだ。

私が周辺情報を含めてなんとか把握している大陸横断鉄道で見れば、前者がセオドア・ジュダ。後者は、ビッグ・フォーと呼ばれた泥棒貴族的な連中だ。アメリカの資本家は、とにかく自分の腹を肥やす。カルテルを組み、値段をつり上げ、政府から、庶民からむしり取る。株価を操作し、売り抜け、大儲けする。そしてその下で建設に駆り立てられた膨大な人数の最下層(奴隷も含む)が殉職していった。そうしたアメリカ経済の負の面は、本書だけではちょっとわからないと思う。日本では、そこまでの私服の肥やし方はない。働き方については『高熱隧道』的なものや、北海道のタコ部屋労働のようなことがあるけれど。

おもしろいのは、そうした面々やその関係者が、日本の経済にも深く関わっていたりすることだ。それは本書には載っていないので、アメリカ鉄道史とその登場人物(資本家)を丹念に追ってみると面白い。幸い、wikipediaに「アメリカ合衆国の鉄道史」というすぐれた項目がある。僭越ながら私が関わった記事もそれなりに役に立っているようだ。同じように、エリー運河にも、ホームステッド法にも、そういう物語があるだろう。それらを把握してこそ、アメリカのインフラ史をおもしろく感じることができるだろう。本書はきっかけに過ぎない。


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