バドンさんのデザインされた「廃線」Tシャツをネタに、ツイッター上でいくつか「廃線」の英語表現についてレスのやりとりがあった。日本語の意味する「廃線」にもっとも近いニュアンスの英語表現はなにか。
辞書的に日本語化すれば同じ日本語になる英語でも、必ずニュアンスの差がある。必要があるから、いくつも単語があるのだ。無関心な部分には、単語は生まれない。牛を食う習慣のなかった日本では、牛の肉を部位によって呼び分ける単語が存在しないことの裏返しと思えばいい。 なお、こんなポストをしてしまうくせに、「廃止」に類する英語は目にする機会が多いわけではないので、自分の感覚がネイティブに近いと思うほどの自惚れはない。あくまで考察である。正しい/誤り、という観点ではないことにご留意いただきたい。 * * *
いままでwikipediaの英語版の鉄道会社の記事や、既に歴史上のものとなった鉄道の資料的なサイト(たいていは「○○鉄道 histrical society」というサイト名になっている)を、それなりの数読んできているが、そのなかで目にしてきて記憶していたのが、abandonedという表現だった。 これは、いくつかの使われ方があり、単に「鉄道会社が合併したから並行路線の片方を廃止した」的な場合もあれば、「放棄されて廃線跡が遊歩道になっている」というような場合にも使われてきた。動詞であるabandonは、高3か浪人の時に、必死こいて覚えた単語のひとつだということは記憶にある。 もともと、abandonには「放棄する」「遺棄する」という意味合いがある。つまり、放棄される前と放棄されたあとがつながっている表現である。だから、私はabandoned railがもっとも適するのではないかと思ったが、それ以外に「廃線」を表記する例を教えていただいた。それらの使い分けを、私なりに考えてみる。なお、line/railway/railroadは相互に入換が可能だと思う。 (1)discontinued line 製造中止になったもの、型落ちになったものを「ディスコンになった」ということから考えると、営業を取りやめた/もはや営業しない、という意味合いが強い。「(時間的に)続いてきたものが終わった」という表現であり、「終わってから」のことを表現しているわけではない。だから、朽ちた枕木とか錆びたレールとかいうニュアンスは非常に少ないと思う。 (2)dismantled railway/railroad(railwayとrailroadの使い分けはwikipediaをぜひご覧いただきたい) mantleは、いわゆる「マント」であり、「覆う」というイメージの単語。接頭辞dis-がついているので、「覆っていたものを引きはがす」、つまり「廃止した跡、レールを引きはがし、路盤だけが残っている」というような (3)dead track 英語のdeadは、日本語の「死」と一対一で対応するものではないので、いろいろな解釈ができてしまう。そして、trackは、これまた多義に解釈できる。1組の線路という物質を指すほか、線路を通行することそのものも指すので、「使われなくなった1組の線路」「列車が走らなくなった路線」どちらにも解釈できる。いずれにしろ、「線路の上を通るもの」が「なくなった」ということを表現する言い方なので、「残された線路/路線がどうなったか」というニュアンスは少ないと思う。 * * *
最後に。Yahoo! 辞書で「廃止」を和英検索すると、下記のようになる。
どれも、鉄道路線の廃止のニュアンスから程遠い。これらの単語を使った「廃線跡を歩きました」みたいな英作文は、ネイティブが見たら珍妙に見えて しまうだろう。 以上、あくまで私の解釈である。誤りがあるかもしれない。なにかお感じになったらご指摘いただければ幸いである。 PR |
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