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PB122178.JPG期待して買ったのですよ、この本。ついに出たか、と。しかし、かなり残念だった。残念、というのは私にとって残念、ということではあるのだが、たぶんかなり多くの人にとっても残念だろうと思う。なぜなら、この本は鉄道における物理をわかりやすくひもとくものではなく、帯にあるとおり、「得意な学科 物理」という人「のためにつくりました」という本なのだ。でも、物理得意なら、ここに書いてあるようなことは見ればわかるんじゃないかと思うんだけど。

私の判断では、この本は編集がまったくなされていない。著者が書きたいことを好き勝手に書いた、読み手に理解させようという気がない、自費出版レベルの本。なにしろ物理と全然関係のない「東京駅とアムステルダム中央駅」とか「駅と郵便局」というコラムが入ってたりするのだ。おかしいだろ?


私は高校1年までしか物理を勉強していないので、もしかしら「お前には語る資格なし」という反論もあるかもしれない。でも、世の中の人の何割が、大学入試レベルの物理や化学を学び、それを憶えているだろうか? 化学で言えば元素の周期表すら憶えてない人も多いんじゃないだろうか。私は日本史をそれはそれは勉強し、どの項目も400字で説明せよと言われたら800字で説明できるくらいにはなっていたと思うが、大学入試から20年経ち、相当残念なことになっている。そういうことを考えると、私にも語る資格はあるのではないかと思う。以下、私の観点で、この本の残念な点を書く。


●残念1:いきなりの物理用語(1)前提とする知識の設定への違和感

本書は、いきなり物理用語が出てくる。通常、ブルーバックスにしろ雑学系の新書にしろ、物理を楽しもうという本は、物理の基本概念を物理の用語は使わずに小学生レベルの知識や例え話で解説する。例えば「10^-1」とか書かないで「0.1」と書く。ラジアンではなく度数法(直角=90度、の角度の表現)で書く。式を暗記させるわけでなし、概念を理解させるのが目的だからだ。

本書には下記の用語が突然出てくる。高校の理系物理、理系化学レベルのものもあるが、このブログを見てくださっている方のうちどれだけの方が、「ああ、それはね…」と解説できるだろうか。

・印加電圧
・界磁コイル
・電機子コイル
・誘導起電力
・素子
・IV族
・角速度ω
・力積
・角振動数ω
・|Z|=1/(ω/C)
・自己誘導係数
・球対象
・誘電体
・準位
・遷移……

いや、調べればわかる。目の前の箱を使えばwikipediaもある(たいてい、詳しく解説されすぎていて余計にわからなくなる)。私はいままでこうしたものをそこそこ読んでいるので実はそこそこ理解はできるのだが、それにしても…。


私は、この手の本は、最初に「フレミングの左手の法則」(中学理科で習う)をおさらいし、また「コイル」とは何か、という説明から始めなければならないと思う。慣性の法則、エネルギー保存則、なんてのもおさらいすべきだ。これらを完璧に理解できている人なら、モーターが回る理屈など教えてもらわずとも知っているのだ。


●残念2:いきなりの物理用語(2)式、変数

なぜ、物理好きは小難しい言い方をしたがるのだろう?
角速度ωで回転する軸に一周でzだけ歯数がある歯車を取り付けると、単位時間あたりで送られる歯数はzω/(2Π)となるが、噛み合っているなら2つの軸でこの値は等しい。
やれやれ。
100の歯を持つ大きな歯車Aと、10の歯を持つ小さな歯車Bとがかみあっている場合、1分間にAが1回転して歯送り100だったとき、Bも1分間に歯送り100(=10回転)となる。
とか書けないものだろうか。
なんというか、「物理的な言い回し」でひとつのネタができそうだ。というかしてる人がいるなあ…。


●残念3:稚拙なイラスト

本書におけるモーターのイラスト。モーターの中身をまったく知らない人が見て、理解できるだろうか?
PB132179.JPGいろいろはしょられているが、矢印方向に電流が流れるのだろう。それすら書いてないよ。。。


たぶん、一般的な男性が思い浮かべることができるのは鉄道車両のモーター(このイラストは直流直巻電動機)ではなく、マブチモーターのようなモーター(永久磁石界磁形整流子電動機)ではないか。マブチモーターは非常に素晴らしいサイトを持っていて、そこでモーターの原理や各部の名称を説明している。

たとえばこちら。基礎の基礎、電磁石とは何か?から解説。
WS000000.JPG

こんなページもある。内容は同じだが、少しまじめ?

直流直巻電動機と永久磁石界磁形整流子電動機に本質的な違いはない。ガソリンエンジンかディーゼルエンジンかくらいの違いなので、説明はコレで十分だろう。


●残念4:誤記多し

こういうことを書くと「これだからマニアは」などと逆ギレされることがよくあるのだが、DMF16とかDMH18とか書いたらいかんでしょ。また、国鉄の形式を「キハ181」などと書くのも誤り。つまり、基本的な鉄道の知識がないのに、鉄道を説明しようとしている。こんなの、少し鉄道がわかる人に一読させれば即座に指摘される内容なのに…。

なお、DF50を抵抗制御と書いてあるのも誤りだが、これは少しだけ同情する。DF50のエンジンとジェネレータは直結していて、ジェネレータ出力は機関の回転数で制御するのだが、私の知る限り、それが掲載されていて入手しやすい本はない。入手しづらい本を含めても『ディーゼル機関車ガイドブック』(誠文堂新光社)のみだ。(レイルロードの『DF50』は未見)。液体式の制御方法がそこそこ知られているのに対して、不思議なことである。


●残念5:後半は息切れ

後半は「物理」でもなんでもない記事、ただの「鉄道の仕組み」が続く。トンネルの工法の解説や閉塞の概念、腕木式信号機の作動の仕組みなど、どこが「物理」なのか。


●残念6:無関係の記事

ここも息切れか。冒頭にも書いたが、鉄道郵便など、本書の内容とまったく関係がない。著者の専門である天文学のことが書かれているのとなんら変わらない。無関係な「コラム」とやらがなぜ掲載されているかというと、「編集」がなされていないから。かくてひとりよがりの本ができあがりましたとさ。



すべてを抜き書きして「これを説明せよ」と書きたいが、やめておく。とにかくこの本は、あくまで教科書で、これをもとに人間の口述による解説がないと物理好きな人(=聞かなくてもわかっちゃう人)以外には理解できない。

もし、この手の本を読んでみたいのであれば、グランプリ出版の各書や学研のムックのほうがよほど詳しく、わかりやすい。そちらを説明する。
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